短編

□青春の1ページ
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中学生になって初めての冬。



ななしは玄関のドアを開くと、少し体を震わせて帽子を深くかぶった。








「ななし!」



「冬獅郎、おはよー!」



「おう!」



私達が付き合うことになって1か月が経つ。



登下校はいつも一緒。






「今日もさみぃーな。」






「そうだねー」



吐く息は白く現れては消える。




クシュンッ!



温度の変化からかついくしゃみが出てしまった。




「風邪ひくなよ。」





冬獅郎は呆れたような顔をしてそっとななしの手を握った。






「え⁉」



予想していなかった行動に顔が熱くなる。



少し前を歩く背中を見て自然と顔が緩んだ。



私だけがドキドキしているわけじゃないんだね。



前を歩く冬獅郎の耳は赤かったから。







握られた手から冬獅郎の温もりが伝わって来る。




手を繋ぐことでさえまだ慣れない。




お互いが照れ屋で極端にスキンシップが少ないからかもしれない。




こうやってたまに手を繋げることが嬉しくて堪らない。














「あっ今日日直だった!」




「マジかよ。」




「急ご冬獅郎!」




「おう。」










































「おはよーななし、シロちゃん!」




「おはよー桃!」



この子は冬獅郎の幼馴染の雛森桃。



おっちょこちょいなところがあるが、そんなところも可愛くてほって置けない。



私の親友でクラスの人気者だ。











「てめぇーシロちゃん言うな!」




「日直間にあった?」



冬獅郎の言葉を完全に無視した桃。



「う、うんギリギリセーフ。」



「そっか良かったね。」


ニコッ―






「おいっ!」




「そうだ、昨日の歌番見た?」




「見たよ。かっこよかった〜」




後ろから殺気が…



「お前らなぁ…無視すんじゃねぇー!!」




冬獅郎はついにブチ切れた。






「もうシロちゃんうるさいよ!」




「だからシロちゃん言うな!!」





「アハハ、はいはい。」




「何笑ってんだよ!」






やっぱり凄いな桃は…


冬獅郎とあんなに仲が良くて。




桃と喋っている時の冬獅郎は何だか楽しそうで、とても良い雰囲気。



悔しいが私なんかより恋人らしい。




冬獅郎は桃のことどう思ってるんだろう。






「ななしどうしたの?」





「えっ?な、何でもなよ。」




「そう?あっ今日ね、部活無いんだって。」




「そうなのか?」



「だからさー3人で帰ろ?」




「仕方ねぇな。」



「うん…」






本当は嫌だった。


2人の話には入れないから。





でも断われない。


桃のことは好きだから。



大切な友達で一緒にいたいと思う。






ヤキモチ妬いて嫌になる。




























 放課後―





「ごめーん。日直で職員室行ってこないと。」




ななしは手を合わせて言う。






「私たち待っとくよ。」





「ありがと、すぐ帰ってくるよ。」





私は急いで教室を出た。









冬獅郎と桃は教室に二人きりか…



少し嫌な気持ちになったが、重い女だと思われたくないのでグッとこらえる。















ガラ―



「失礼します。黒崎先生は…」




「名無し。」



黒崎先生は手招きをし私を呼ぶ。





「なんでしょう?」



「実はさっき井上先生から花をもらったんだ。そんで俺は今から会議なんで活けといてくんねぇーか?」




「あ、はい。」



「わりーな。御苦労さん。」




ちょっと面倒臭かったけど、仕方なく引き受ける。



ちゃっちゃと終わらせよう。






ななしは、階段を駆け上り教室の前に来ると目を疑った。



少し開いた窓の隙間から、冬獅郎と桃が抱き合っている姿が見える。



ななしは咄嗟のことで花を落とし冬獅郎に気づかれてしまった。



私は何故だかその場から逃げ屋上に向かっていた。















なんで…


なんで?



冬獅郎は桃が好きだったの?




今までのこと嘘だった?




好きって言ってくれたのも嘘?





言ってくれればいいのに…





私手をつないだだけで舞い上がって、ほんと…





「ばかみたい。」









屋上に着くまでに感情を押さえ切れず、階段の手摺に寄り掛かりながら泣いた。




校舎の階段は嫌なほど音が響く。






私は懸命に声を押し殺し、止め処なく流れる涙を拭い続けた。





















ふわっ




「え⁉」



不意に後ろから温かいものに包まれたれた。




この匂い…







「どこ行くんだよ。」




「と、しろ?」



少し息が荒い。


走って来てくれたの?



なんで…












「離してよ!」



ななしは冬獅郎の腕を払いのけた。




「何で追いかけてきたのよ!私なんかどうでも良いくせに!!





桃と一緒に帰ったら良いじゃない!」





追いかけてきてくれて嬉しいのに。


突き放す言葉しか出てこない。











冬獅郎は苦しそうに顔を歪めた。







「…できるかよ、そんなこと。」










冬獅郎は無理やりななしを抱き締めた。




「離、して。」





「離さねぇー」




「はなしてよ…」










冬獅郎の腕の中はとっても温かい。



伝わる体温も優しい匂いも力強い腕も。


すべてが愛しくてすごく落ち着く。



このままずっと。



時が止まればいいのに。










「雛森に告白された。」




「…」






































「シロちゃんは、ななしが好き?」




「なんだよ急に。」




「答えてよ!」







「…好きだ。」




桃は悲しそうに俯く。






「好きなのシロちゃん…私じゃダメなの?」










「すまん。」









見ていられず顔を逸らすと、ギュッと抱きしめられていた。



「やめろ雛森。」






体を離そうとすると顔を上げた雛森と目が合う。




自分の姿が映るその大きな目から涙が流れた。





雛森…




「私シロちゃんのことななしよりも前から好きだった。」





「…」





「私…どうしたらいいのか、わからない。」
























俺は雛森の体を離そうとした。





その時廊下から物音がして振り向くとななしがいた。



















「そう、だったんだ。」




桃も冬獅郎のこと。





「私…」




知らなかった。




桃のことずっと傷つけてたんだ。






だけど。



だけどね。






「私も冬獅郎のこと好きなんだよ。」





どうしようもないくらい胸が痛い。




止めどなく溢れる涙がポタポタとスカートに染み込んでいく。



涙の止まらない私を冬獅郎は優しく抱きしめてくれた。








どうしたらいいんだろ。




これから桃とは前のように仲良くできないのかな?
































二人で教室に戻ると桃が泣きながら駆け寄ってきた。





「ななしごめん、ごめんね…私…ななしを傷つけた。」




桃の瞳からどんどん溢れてくる涙で私の胸が締め付けられる。





「私も…桃の気持ちに気付いてあげられなくてごめん。」




覚悟を決めてギュッとスカート裾を握る。





「冬獅郎のこと好きなの、だけど桃のことも好き…我儘なのはわかってる。でももし、できることならこのまま、友達でいたい。」




俯き止まっていた涙が溢れ出す。




「もちろん私も友達のままでいたいよ。」







私は泣きながらそっと桃の手を握った。































時が経って私は冬獅郎と結婚することになった。




純白のドレスに身を包み、控室の鏡に映る自分の姿を見て思い出していた。




私たちは今でも3人仲が良い。




桃には惣介さんという年上の彼もできた。





親友と同じ人を好きになってしまった。




そのことを知ってしまってからはつらかった。




正しかったのかどうかわからない。











「新婦様ご準備整いました。」





私は椅子から立ち上がり部屋を出ると、廊下にいる人影に足が止まった。










「桃…」





「おめでとうななし、すごく綺麗。」






「ありがとう。」








沈黙が二人の間に流れる。








「ずっと言いたいことがあったの。」





「…」





私は桃の言葉を静か待った。







「ななしがあの日から私ことを負い目に感じていたことは気付いてた。私もななしを傷つけたことをずっと後悔してた。」






胸がギュッと締め付けられる。









「だけどね、昔も今も…そしてこれからもずっと…私はななしが好き。この気持ちは変わらないから。」








桃の言葉ひとつひとつが心へ染み込んでゆく。



ずっと心につっかえていたものが無くなっていく。





桃はゆっくり側へくるとそっと私の手を握った。





「幸せになってね。」





目頭がジーンと熱くなって前がぼやける。





「ありがとう。幸せになるね。」






握られた手をきゅっと握り返した。











「ほらシロちゃんが待ってるよ。」




「うん。」




二人は手を繋いで式場へ向かった。






















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