短編

□あの頃C
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『助けて』




ななしから一言メッセージが来た。





あのななしが助けを求めてくるなんて余程のことがあったんだろう。







女子寮まで一瞬で辿り着くと、部屋の扉を開けたまま怯えた様子で立っていたななしに大丈夫かと声をかけた。





「悟!」





振り向いたななしは泣きそうな顔で俺の名前を呼びながらギュッと抱き着いてきた。





「っな…お、おいどうしたんだよ。」





いつもと違う可愛らしいななしに動揺を隠せない。





震える肩に手を置いて言葉を待つと、涙を溜めた瞳で見上げられた。





なんつー破壊力。





これはヤバい。





煩い鼓動を気づかれないように平常を保つ。






「出たの…」




「何が?」




「黒いの。」




「黒いの?」




何が何だかサッパリだ。





「…Gが。」




「…なんだゴキっ」




ななしの肘が油断していた悟の鳩尾に綺麗に入り、久々に物理攻撃を受けた苦しみで一瞬息が止まった。








「っつ、何すんだよ。」




「みなまで言うな。」






半泣きの状態なのに圧がすごい。






「お願いだから退治して!」




「お願いする立場でこんなことするかフツー?」




悟はお腹を押さえて汗を垂らす。




「ごめん、何でもいう事聞くから。」




「…」




聞き間違いかと思った。





「もう無理なの、あれが居ると思ったら部屋に入れない。」





「何でも聞いてくれるんだな?」





「常識の範囲内でだよ。」





「それだけ確認できれば十分だ。」





悟は口角を上げてグルグルと腕を回すと任せとけと部屋の中へ入っていった。






ななしはすかさず扉を閉める。






「おい、閉めんな!」




「出てきたら嫌だもん!」




納得したのか諦めたのかどちらにせよ、もう悟は反論してこなかった。



























私は悟が出てくるまで廊下で待っていると硝子が帰ってきた。





「何してるんだ?」




そんなところでと言いながら側に来てくれた硝子の腕を掴んだ。





「ついに出たのよアイツが!」





「アイツ?」





「黒くてカサカサ動くほら。」





「あぁアイツね。」





すぐに分かってくれる辺りやっぱり硝子は私の一番の親友だ。






「ななし泣いた?」





少し腫れぼったい瞼に硝子の手が触れる。




冷たくて気持ちい。




「ちょっとだけ。」




「後でちゃんと冷やしておけよ。」




「はぁい。」



硝子の優しさに心地よさを感じていると私の部屋の扉がガチャリと開いた。






「ななしヤったぞ。」




得意気な顔で出てきた悟にありがとうとななしが飛びつく。






「珍しいこともあるんだな。」






いつもなら有り得ない状況に硝子は少し眉を上げ、これ傑が見たら怒るぞと心の中で思う。








「何でも言う事聞くんだよな?」





怪しい笑みを浮かべた悟は再度確認する。






「そんな事言ったのか?」






呆れた顔の硝子に言ったと頷くななし。






「私は知らないぞ。」





「や、やばいかな?」





恐怖に追い詰められて思わず放ってしまった言葉に、冷静さを取り戻すと徐々に不安になっていく。









何させよっかな〜と呟きながら顎を触りニヤニヤと楽しそうに悩んでいる悟に不穏な気配を感じ取る。






「嫌がらせはやめてね。」




「しねーよそんな事。」




悟の言葉を待っていると硝子は私部屋帰るからと言ってパタンと扉が閉まった。





それを見計らっていたかのように悟は光を反射させたサングラスを外し願いを提示してきた。








「じゃあ、キスして。」












「…嫌がらせじゃん!」





「嫌がらせじゃねーだろ!」






「常識の範囲外だよ。」





「俺の中の常識。」






ああ言えばこう言う。





常識外れてるんだったこの人と残念そうな眼差しを向けると、約束だろうと詰め寄ってくる。






「それは一般の常識超えてるから無理!」






「何の常識かなんて言ってなかっただろ?」







五条悟と言う人間に常識が通じずぐぐぐと押し黙る。






反論がなかったので肯定と捉えた悟はななしを壁に追い込み顔の両側の壁に腕を付けて見下ろした。






いわゆる壁ドン。






六眼をこんな至近距離で見るなんて今の人生では無いと思っていた。





透き通るように綺麗で引き込まれる。





そんなことを考えていると悟の顔が後10p程に近づいていた。





ここまで近づいても尚、美しいと思う顔に心臓が警鐘を鳴らす。





私は覚悟を決めて悟の胸倉を掴むと一気に引き寄せキスをした。






























頬に。











チュッと音を立てて離すと、ここまで詰め寄ってきておいて顔を真っ赤にする悟が可笑しくてふっと吹き出してしまった。







「どこにとは言ってなかったもんね。」






固まったままの悟の腕の下をくぐり抜けてななしは陽気に部屋へ帰っていった。














「…やられた。」







熱が冷めない真っ赤な顔で頭を掻くと、握っていた気休めにもならないサングラスをかけて女子寮を後にした。




















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