短編

□あの頃B
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「なぁ、ななし太った?」





「はぁぁぁ?」





悪びれる事無く最近の私の悩みをド直球にぶつけてくるものだから振り向き様に般若の如く睨みつける。





「デリカシーって言葉知ってる?」





「絶対太った!顔とかも肉付いてんじゃん。」





クイズ番組の答えを当てたかのように嬉々としている悟に私の言葉は聞こえていないようだ。







「悟、女の子にそんな事言うもんじゃないよ。」






隣で悟の肩に手を置いた傑は顔を顰める。






「いんや、毎日見てるんだ俺にはわかる!」






「否定しているわけじゃない、オブラートに包めと言っているんだ。」







「おい、実質傑も同罪な。」







私は傑に近づき肩を少しぶつけて眼を付ける。








「何でこんな動き回ってんのに太れんのか理解できねぇ。」






「うっさいわね、女子には色々あんの!」






話しても埒が明かないと思い強制的に話を終わらせようと二人に背を向けて廊下を進む。








「なんだよ色々って!」





「色々は色々だよ空気読め!」





傑は二人の会話に小さく溜息を吐いた。







「お前可愛いんだから勿体ねぇよ。」





「は、はぁ?」





悟の唐突な誉め言葉に反応してしまって再度振り返る。







「じゃあダイエット私が手伝おうか?」





悟との会話を遮って傑は手を上げる。






ニコニコとした表情が却って怪しい。









「…いいの?」






「もちろん。毎晩私の部屋においで。」





「お断りします!」





爽やかな顔してとんでもないこと考えてんじゃん!




「そう言うのは無しで。」




手でバツを作って突き付ける。





「傑振られてやんの〜、ヤルなら俺の方が良いよな?」





「だからオブラートに包めって!」





握った拳をお腹に一発入れようとするも虚しく寸前で止まった。





分かってたけど気分が悪い。








「お願いだから普通の方法にして?」













「じゃあ瘦せたら俺の彼女にしてやるよ。頑張れるだろ?」






サングラスをずらし腰を折って意図的に目を合わせてくる辺り、自分の容姿を良く理解している。




そう言う狡獪な所が嫌になる。






「…」






「何だよそのブサイクな顔、こんな高スペック男子他にいねぇーぞ。」











私ははぁ〜と豪快に溜息を着くと無視して歩き始めた。








「おい、無視か!ななし!」



























木製の廊下に軽やかに響く靴音が煩い程に響く蝉の鳴き声で掻き消される。





残暑が続く懐かしいあの頃の話。



















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