短編

□言葉にしなくても
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二年メンバーでのトレーニング中に転んで鼻血を出して医務室へ来ていた。





鼻血はすぐに止まったが、同時に頭も打ったようで安静にするためベッドで横になっていた。






「ツナマヨ?」





心配そうにこちらを見る棘くん。





「大丈夫だよ。ありがとう。」





そう言って微笑むと少し安心したようで棘くんの表情は柔らかくなった。





転んですぐに棘くんが走って来てくれて、そのまま有無を言わさすお姫様抱っこで医務室へ運んでくれたのだ。






前も、その前も、何かあった時必ず棘くんは来てくれた。







そしてその度、棘くんに惹かれていくのがわかった。






二年メンバーで私は一番弱い。






怪我も多いし、よく皆の足を引っ張る。






周りをよく見ている棘くんは、そんな私をフォローしてくれているのだろうと思う。






皆に必要とされる存在になりたい。








これ以上棘くんに迷惑をかけたくないよ。













もう30分くらい横になってるし大丈夫そうかな?






私はトレーニングに戻ろうと上体を起こした。






「お・か・か!」





すると棘くんは起こした体を押してまだ横になっているように促してくる。





「もう大丈夫だよぉ。」





「高菜、明太子。」




難しい顔をしているのでダメだと言われている様だ。










そのまま少しの間、お互い黙ったままでどこかを見つめる。





























「ねぇ棘くん。どうしてそんなに優しいの?」











横になっている私を見ながら固まる棘くん。










「私足手まといだよね…」









体を動かしていないと思考がどんどんネガティブになっていって、ついそんな質問を口にしてしまった。









しまったと思った時にはもう遅くて、すぐに後悔の念が押し寄せる。






居た堪れなくなって顔を逸らすとペチッとおでこを弾かれた。







「いたっ」







急なデコピンに驚いて額を押さえながら見上げると、今まで見たことない様な怒った表情の棘くん。









「すじこ。」









そりゃ怒るよね。






「…ごめんなさい。」







ほんと何やってるんだと反省し、飼い主に怒られた犬のようにシュンとなった。












すると、棘くんの手が伸びてきて前髪に触れたかと思うと先ほど弾いた額をそっと撫でて、頬にそして唇へ綺麗な指が滑っていく。








と、棘くん!?


















「…ツナ。」










謝ってる?




「だ、大丈夫だよ!」





















表情を変えない棘くん。







「ん。」






と手の平を指さした。






手を出せってことかな?




私は手の平を上に向けて少し前に差し出した。






棘くんは私の手を掴むと人差し指で何かを書きだした。
















”す ”











”き ”













「すき…」







言葉の意味を理解して鳥肌が立った。








棘くんの顔を見ると赤くなっている。







ドキドキと心臓が脈打って息が苦しい。







どうしよう、どうしよう。






すごく嬉しい。











「棘くんありがとう。大好き。」










「…シャケ。」









照れたように頷く棘くんは可愛い。









「あーすごい元気でた!私頑張るね!」








やる気がみなぎって勢い良く起き上がる私に焦ってベッドに押さえつける棘くん。






「おかか!」














貴方の隣に並んで居られるように強くなるよ。











そしてこれからもっと貴方の事を知っていきたい。










見つめ合って心が溶け合うような幸せな感覚に包まれた。









もう言葉にしなくても好きが伝わってくる。










棘くんも同じことを思っているのか見つめ合ったまま微笑み合った。



























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