短編

□マルベリー
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最近の悟は私の知らない誰かに度々会いに行っている。




高専生でありながら既に一人で任務に出ることができる彼は誰から見ても最強だった。




つまり多忙という事で、高専に帰って来ては出て行く帰っては出て行くを繰り返していた。




私には悟が任務なのか、それとも誰かに会いに行っているのかすら把握できていない。





曲がりなりにも一級術師である私でさえ忙しくて東奔西走しているのだから当たり前なのかもしれない。









付き合ってもうすぐ一年。



ろくにデートもできていない。




傑が居なくなってからは特に時間が合わなくなった。





会いたい。





そう想っているのは私だけなの?






悟、今どこにいるの?

























「ななしさんお疲れ様でした。高専にお送りしますね。」




「お願い。」




呪霊を祓って車に戻るといつも通り補助監督が高専まで送ってくれた。







流れていく景色を見ながらボーっとしていた。





この一週間、硝子にも会えていない。





孤独を感じる。




傑はどうしているんだろう。




悟は…






もう考えるのはよそう。














目を閉じているといつの間にか寝てしまっていた様で、起きた時には高専に着いていた。





空は曇天で今にも雨が降りそうだ。




私は足早に寮へ戻った。










部屋の扉を開けようとしたところで中に人の気配を感じた。






ガチャっと触れていないのに勝手に扉が開いた。





「おかえりななし!」




「…悟?」




目をパチパチさせていると腕を引っ張られてそのまま優しく包み込まれた。





「会いたかった。」




「…私も。」




懐かしい様な悟の匂いにジーンとしてそっと背中へ腕を回した。






「やっと仕事が片付いた。今日は一日ななしと一緒に居られるよ。」




「ほんと?嬉しい!」






部屋へ入ると悟はベッドに腰掛けた。




「何か飲む?」




「じゃあコーヒーで。砂糖たーっぷり入れてよ。」




「はいはい、悟が来るとすぐに砂糖が無くなるんだよね。」




困ったように笑う。




「今度箱買いして置いとく。」




「止めて?部屋が狭くなるから。」




コーヒーの香りが部屋に広がりホッとする。





気づけば、さっきまでの陰鬱だった気持ちが消えてなくなっていた。






「はい、どーぞ。」




そう言ってコトリとお揃いのマグカップをテーブルの上に置いた。




「ありがと。」




ベッドを背もたれに場所を移動していた悟の横に座ろうとすると、ポンポンと足の間を叩いて悟は合図する。





「おいで。」





「え?」




「いいからいいから。」




半ば強制的に腰を掴まれて座らされた。




体格差もあってすっぽりと収まり後ろから優しく抱きしめられる。



背中が温かい。





「はぁ〜堪んない。」





首元に顔を埋められてサラサラの髪がくすぐったい。




体に回された腕に触れようとしたときヴヴヴとスマホの振動が伝わってきた。




嫌な予感がした。




「っち。」



舌打ちをした悟はごめんと言って電話に出た。




「もしもし、……え?…う〜ん、仕方ないな。わかった行くよ。」






ピッと電話を切るとポケットにしまった。






「急用?」





「うん、ごめんね。」





再びギューっとななしを抱き締めた悟は溜息を吐いてから立ち上がる。






玄関まで見送りをするために付いて行くと、振り返った悟は私の顎に手を添えて唇を重ねた。






「大好きだよななし。」





「うん。私も大好きだよ。」





そう言葉を交わしてパタンと扉は閉まった。






入れたばかりの二つのコーヒーはまだ湯気が立っていて、それが更に虚しかった。







私はベッドへダイブすると枕に顔を沈める。













見てしまった。




スマホの画面を。




電話の相手は私の知らない女の名前だった。





私よりもその女が優先なの?





今日は一日一緒に居るって言ったのに…









「…噓つき。」


















涙が頬を伝い枕を濡らしていく。





悲しみ以外を感じなくて枕が濡れるのも構わず泣き続けた。






そしていつの間にか私は眠っていた。







































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