短編

□小白の栴檀草
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「お前らしくないな、こんな失敗は。」





狭い会議室に響く主任の低い声。





いつもなら嬉しい二人きりのシチュエーションも今日は違う。





「申し訳ありませんでした。」




私は頭を下げる。





そう、重大なミスをおかしてしまったからだ。





一歩間違えれば会社の重要機密事項が漏洩していたかもしれない。






ツォンさんが尻拭いをしてくれて何とかなったが多大な迷惑をかけてしまった。







「以後、気を付けろ。」






そう言い残してツォンさんは出て行った。





ぽつんと部屋に残された私は久しぶりに会社で声を押し殺して泣いた。





ほんと嫌になる。




無能な自分が。




あの時、時間がないからと再確認しなかったせいだ。





後悔しても遅いのにそんな事ばかり考えてしまって涙が止まらなくなる。





ツォンさんに失望されたかもしれない。





それが一番悲しかった。












私は足を抱えて床に座ると壁にもたれかかって流れる涙を放置したまま少し間ボーっとしていた。

































ガチャ





扉を開き鼻歌を歌いながら入ってきたレノは私をみてギョッとした。





「な、ど、どうした?ツォンさんにでも振られたか?」





冗談ぽく言うも反応がないため焦りだすレノ。





「お、おい、ななし大丈夫か?」




隣へしゃがみ心配そうに背中をさすってくれた。





「…れのぉ」




その優しさが再び目頭を熱くさせ、レノのだらしなく開かれたジャケットの裾を握った。





「全く、どうしようもないお姫様だぞ、と。」





そう言ってレノは何も言わずに私が落ち着くまでの間、隣で背中をさすってくれた。







































「そんなことで悩むなよ、勿体ない。」






会議室の床に並んで座り込み私の泣いていた理由を聞いたレノは言い放った。





「そんなことって何よ。」





少しムッとして言い返す。






「もう終わったことだろ?ならもう考えなくていいぞ、と」





「分かってるけど…」





レノの言いたいことはわかる。





だけどそんなすぐに切り替えるなんて私にはできない。





「んーじゃあ、何も考えられなくなるまで抱いてやろうか?」





「はぁ?なに言ってんの嫌です、断固拒否します。」






突拍子もないことを言うもんだから、つい声が大きくなってしまった。







「そこまで言われると傷付くぞ、と。名案だと思うけどな。」






「何でそうなるのよ。」





「お前が強情だからだぞ、と。」





レノは油断しきった私の体をいとも容易く押し倒した。





「ちょ、ちょっと離して。」






「離さないぞ、と。」





シャツの間に顔を埋めて鎖骨あたりをレノの舌が這う。





「あっ…やだ。」




ねっとりとした感覚にピクリと体が反応する。





抵抗するも両手は押さえつけられ、足の間にレノの膝があって身動きが取れない。





首筋にちゅちゅっと音を立てながら何度も何度もキスをされて徐々に体が火照っていく。






「れ、の…」





頭がぼんやりしてきてギュッと目を瞑ると体に乗っていた重みがスッと消えた。





ゆっくり目を開けると薄い空色の目に見つめられていた。






「もう頭ん中、俺でいっぱいだろ?」






妖艶な笑みを浮かべるレノにカーっと顔が熱くなる。





胸を押しのけて立ち上がると乱れた襟元を正し睨みつけた。






「いい加減にして。」






「おーこわ。」





レノは両手を上げて降服のポーズをとる。





「せっかく見直したと思ったのに…」





「ななしはそっちの方がいいぞ、と。」





「え?」






「悲しんでるより怒ってる方が、怒ってるより笑ってる方が、な?」






面白そうに笑うレノの笑顔に不覚にもドキッとした。






励ましてくれているのが分かって何だか調子が狂う。







「…ありがと。」






そっぽを向いて呟くと、なになに照れてる?と顔を覗き込んできたので鳩尾にエルボーを食らわせた。






「これでさっきのチャラにしてあげる。」





「いてて…ひどいぞ、と。」





お腹を押さえて涙目になるレノにふっと笑いかけると、悩んでいたことがアホらしくなった。






「途中で止めてやったんだ感謝しろよ。」




「あのまま続けてたら殴り飛ばしてたわよ。」






いつもの調子が戻ってどちらからともなく声を出して笑った。









「ところで何でこんな人気のない会議室に来たのよ。」





「そりゃ恰好のサボり場だからだぞ、と。」





「ふ〜ん…あっそ。」







私は自慢げに言うレノの腕を掴みオフィスに強制連行した。







































「小白の栴檀草」花言葉は、不器用・忍耐。
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