短編
□光と影
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俺は走っていた。
柄にも無く必死にだ。
ななしが大怪我を負って入院したと里に戻ったタイミングでサクラが連絡をくれた。
火影への報告を後回しに病院へ着くと、受付で部屋を聞き階段を上がる。
走ったせいもあり息が切れていた。
この高い心拍数は走ったからと言う理由だけじゃない。
部屋へ一歩また一歩と近付く度に恐怖が押し寄せてくる。
やっとの事で"はたけななし"と表札の入った部屋の前に着き扉へ手を伸ばすも体が強張った。
俺は恐いのか?
ななしは生きている。
それは既にサクラからの連絡で知っていた。
ここへ来るまでの間回らない頭で、ななしを失いたくない…もうこれ以上大切な人を失いたくないと強く思った。
ふぅ〜と息を吐き出してサッと扉を開く。
部屋は個室で窓際に置かれたベッドの上にはスヤスヤと眠るななしの姿。
頭と身体中を包帯で覆われている。
起爆札がモロに当たったと聞いたが、これは酷い。
俺はベッドの淵に座りそっと頬を撫でると気持ち良さそうに微笑むななし。
「人の気も知らないで…」
視界が歪んでいくのを気づかないフリをして、薄く開かれた唇にキスを落とす。
いつもの柔らかいそれが乱れた心を落ち着かせた。
顔を上げた拍子に俺から落ちた水がななしの頬を滑る。
「また来るよ。」
そう言って垂れた雫を拭うと俺は病室を後にした。
「ご苦労だった。…それにしても酷い顔だな。」
「まぁ。」
綱手様は報告を受けた後そう言った。
相当酷い顔なんだろうなと自分でも思う。
「…明後日まで休みをやる。」
「え?」
「そんな顔のまま任務は任せられん。」
「ですが…」
明日も明後日も任務が入っていた筈だ。
「私が良いと言っているんだ。」
いつもの横暴さも今回ばかりはありがたかった。
「あいつの側に居ろ、いいな。」
「…ありがとうございます。」
カカシは深く頭を下げると失礼しますと言って火影室を出た。
休みをもらった二日間は可能な限り病院に入り浸った。
「カカシさん!」
「いいよそのままで。」
無理矢理に体を起こそうとするななしを止めて備え付けの椅子に座った。
「昨日も来てくれたけど任務は大丈夫なの?」
「火影様が融通を利かせてくれてね。」
「そうだったんだ。今度、お礼しないとね。」
「あぁ。」
二日前はあんなに荒んでいた心がななしの笑顔を見ただけで嘘のように穏やかだ。
「退院したらさ何処か行きたいところある?」
「行きたいところね〜海かな。」
少し考えて閃いたように言う。
「海いいね。」
「海いいよね。」
「水着姿見たい。」
「そっちね!」
笑いながら突っ込んでくるあたり元気そうで何よりだ。
「ねぇ、早く怪我直して。」
「無茶言わないの。」
開いた窓から心地の良い風が入り頬を撫でていく。
カカシは足の上で組んだ手に視線を下ろした。
「ななしが居ないと家が静かなんだ。」
ななしは天井を見上げたまま口元を緩める。
「そっか…じゃあ早く帰らないとね。」
沈黙までもが心地良い。
俺の妻は太陽の様だ。
温かくて、いつも俺を照らしてくれる、なくてはならないもの。
ななしが居てくれるから俺はちゃんと自分でいられる。
「ななし。」
「うん?」
「愛してるよ。」
「うん。私も、愛してる。」
ほら、やっぱりななし側はこんなにも温かい。
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