短編

□日常のひとコマ
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「任務お疲れ様。」




報告を終えて火影室を出ると、腕を組んで壁に寄り掛かって待っていたカカシが笑顔で手を挙げた。





「カカシもお疲れ。」





張りつめていたものがカカシの顔を見て一気に緩み、私はやっと仕事モードから解放された。






「早く会いたくて迎えに来ちゃった。」





カッコいい大人男子からは想像もつかない様な可愛い台詞に、長い付き合いであるにも関わらず胸をキュンとさせられる。





ありがとうと言いながら自然と笑みが零れた。






「ご飯作ってあるんだ食べるでしょ?」




「食べる!カカシのご飯すっごく美味しんだよね〜」




想像するだけで家に帰るまでが待ち遠しくなった。





肩を並べて向かう先はカカシの家。






付き合ってお互い大概の事を理解できるようになった頃には、帰る先が彼の家になっていた。





と言っても忍である私たちは忙しくて、任務で家を空けることもしばしば。





一日一緒に居ることの方が珍しいくらいだ。





それでも問題なく二人の関係は続いている。





鼻筋の通った整った顔も。





落ち着いた穏やかな声も。





頼りになる大きな手も。





普段人には見せない寂しがり屋なとこも。





言い始めたらキリがないくらい全てが好きで、何があってもカカシの隣に戻れば自ずと心が安らいだ。






きっと隣を歩く彼も同じように想ってくれていると自負できるほどには共に過ごしている。


















家に辿り着いた頃には太陽が沈みかけていて、カーテンの開いた窓から差し込んだ陽が部屋中を暖色に染めていた。






キッチンからは何やら良い匂いがする。





顔を向けてクンクンと嗅いでみると私のお腹からグゥ〜と腹の虫が鳴いた。





「はは、可愛い。」




笑われた恥ずかしさと、茜色に照らされたカカシの笑い顔が堪らなくてプイっと顔を逸らした。





「…あ、忘れ物。」




カカシは両手で私の顔を包み込み、いつの間に口当てを下していたのか唇が触れて控えめなリップ音をさせると、いつもの穏やかな声でおかえりと言った。








「ただいま。」























ご飯の準備をしておくから先にお風呂どうぞと言われたので、お言葉に甘えて脱衣所へ向かった。





任務で汚れた衣服を洗濯機の中へ脱ぎ捨てて浴室に入ると、温めのシャワーで髪を濡らした。





浴室に物が増えるのが嫌でシャンプーもリンスもボディーソープも共用している。





始めの内は女子としてどうなのかと思っていたが、今はカカシと同じ匂いでいられる事に幸せを感じている。






お腹が空いていたのでぱぱっとシャワーだけで済まし、リビングに来た時には夕食の準備はほぼ終わっていた。






ありがとうとお礼を言って、まだ並べられていなかったお箸を用意すると互いに日々のルーティンによって所定となった椅子に座り両手を合わせた。






「「いただきます。」」






ぶり大根に茄子の味噌汁、蛸と胡瓜の酢の物とひじきの煮物、味付けもバッチリで全てが美味しかった。





特に魚を使った料理はカカシの十八番で、後々食べ過ぎで後悔するほどには美味しい。







美味しいこれも美味しいと言いながら食べているとカカシは照れたようにそうかなと言った。







盛り付けられていた料理を綺麗に完食すると、作ってもらった代わりに洗い物はするからとカカシにはお風呂に入ってもらった。






案の定食べ過ぎでお腹が苦しい。






学習しないな私、と思いながらふぅ〜と息を吐いたところで最後のお皿を洗い終えた。


























リビングで寛いでいると部屋着に着替えたカカシが戻ってきた。






「ななしお茶でも飲む?」





「いいね!」





立ち上がってカカシの後ろを通るとキッチンの頭上の戸棚を開いた。






「確かここにもらった茶葉があったはず…」





つま先立ちをして見えない戸棚の奥を手だけでゴソゴソしていると、どれと後ろから片手を私の腰に添えたカカシが手を伸ばした。





私が一生懸命手を伸ばしても届かない所にあっさりと届く高身長の彼にどぎまぎする。






「緑の缶?」





そう、と触れられた腰に意識を持っていかれながら答える。





緑の缶を渡されて体が離れたことに寂しさを感じながら、急須に茶葉を入れてお湯を注ぎ湯飲みを二つ用意してリビングの机に置いた。







向い合せに座りいい具合に色づいた頃合いで緑茶を湯飲みに注ぎ入れ、片方をカカシの前に差し出した。





カカシの前には愛読書が置かれている。






熱いお茶をふぅふぅしながら、これから読むのかなと眺めてみるが一向に開こうとしない。








「ななし。」





「ん?」





「俺たち付き合ってもう三年経つな。」





「三年…そうだね。」




指を折り数えながら少し考えて答え唐突な話題にどうしたのか表情を伺えば、真剣な目のカカシとバッチリ視線が合った。














「ななしのこれからの人生、共に生きる権利を俺にくれないか?」











「え?」





予想外過ぎる言葉に混乱してつい問い返してしまった。







「幸せにするよ世界中の誰よりも。」






ひと言ひと言確かにハッキリと言葉を紡ぐ。










「結婚してくれ。」









不意を突かれたせいで頭が沸騰したように機能せず言葉が見つからない。






そんな私を急かすわけでもなく、ただ見つめたままで待ってくれている。






徐々に理解が追いついてきて胸がぎゅーっとなって昂る感情の波が押し寄せてきた。





嬉しくてどうしようもなくてコクコクと頷いて震える声でお願いしますと言うと、カカシは側に来て優しく抱き締めてくれた。






私もカカシの腰に力いっぱい抱き着く。







あぁ、どうしよう。








幸せだ。









ロマンチックでも派手でもない、飾らない日常のひとコマのようなプロポーズにカカシらしさを感じてホッとした。









これからもずっとカカシの隣で生きていくことができる。







一年後、二年後、十年後と想像するだけで顔が緩んだ。









「どうしようカカシ…今すごく幸せ。」









「俺も。」









ありがとうと言ってカカシが前髪にキスを落とすと、私は見上げてカカシの首の後ろに腕を回し唇を寄せ甘い口づけを送った。

























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