短編

□絶望
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「あたしから逃げられるとでも思ってるんですか?」






ななしは呼吸音を聞かれないようにと震える両手で口元を覆い、物置部屋に隠れた。



一畳程の暗い室内は明かりはなく扉の下の方にある空気穴から光が漏れているだけだ。


奥の壁に背を預け必死に体の震えを押さえる。



「出てきてくださいよ〜ななしさん。」



ザッザッと足音がこちらへ向かってくるのがわかり、それと比例して心臓の鼓動も大きくなっていく。




下から漏れる光に影が入って来たかと思うと、扉の前で足音が止まった。



口の中はカラカラに乾き、冷汗が頬を流れ落ちる。




”お願い、開けないで”
























思いも虚しく目の前の扉はゆっくりと開かれ端から微かに光が差し込む。











「見つけた。」









隙間から獲物を見つけたかのようなギラギラとした眼がこちらを見つめ、私は金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。



喜助は物置部屋に入ると扉を閉めた。


暗闇に彼との距離も表情もわからなくなりドッと恐怖が押し寄せた。


狭くて暗いこの空間に二人。




「き、すけさ…」



口が乾いているせいか掠れた小さな声しか出ない。



背には壁があり完全に追い詰められた。




「ななしさん…」





スッと顔の横に気配を感じ避けようとすると喜助の体で壁に押し付けられる状態になっていた。







「やめ、て。」




逃れようと懸命に体を押し返してみるも震えて力の入らない腕ではビクともしない。



顎に手が添えられるとグイッと顔をあげられ唇に柔らかいのもが当たった。



「っん…」



「口、開けてください。」





意地でも開くまいと食いしばる。




「手荒なことはしたくないんスけどね。」



そういうと喜助はななしの後ろ髪を下に引っ張る。



「うっ」




食いしばっていた口が自然と緩み舌が口内へと入ってきた。


ねっとりと味わうように口内を動き舌を絡め取られる。



暗い室内には二人の交じり合った吐息とぺちゃぺちゃという水音が響いた。




「んんぅ…」



口の端から唾液が垂れ、苦しくて抵抗するも口づけはどんどん深まっていく。



「ふっ、ぅん…」




生理的に涙が零れた。



脳が痺れたような感覚。




ボーっとしてくる。






足の力が抜けて喜助の体に支えられる状態になってしまった。




唇が離されると私は求めていた空気をいっぱいに吸い込んだ。




「はぁ、はぁ…」




「ダメですよ〜こんな事で腰抜かしちゃ。



まだ先は長いんですから。」




耳元で聞こえる囁き声に鳥肌が立つ。





「はぁっ…はな、して。」






「離しませんよ…」




襟を肩まで下げられ首筋をツーっと舌が這う。


背筋がゾクゾクとした。



徐々に上がってくる舌が離れると、耳朶にチリっと痛みを感じた。






「一生ね。」







心臓をギュッと握られたような感覚に息が苦しくなった。






あぁ、私はもうこの人から逃げられない。





















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