短編

□屋上の先輩
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俺はだりーアスマの授業をサボって屋上へと向かった。





肌寒くなってきた今日この頃、ポカポカ日向ぼっこをしながら空に浮かぶ雲を見るのが至福の時間だ。







扉を開け裏に回ると既に先客がいた。



「またサボりっすか?」



彼女は顔だけ俺の方へ向けると「シカちゃん来たんだー」と、へらっと笑う。







1つ年上の名無しななし。





俺が屋上へ来たときはかなりの確率でいる。





いつものようにななしさんの右横に寝そべると石鹸のような匂いがほわっと香ってきた。




俺はこの匂いが好きだ。




これだけ聞くと変態みたいだが、すごく落ち着く。






「シカちゃん単位大丈夫なの?」



「ななしさんには言われたくないないっすよ。」



まぁそうかと、またへらりと笑う。





このななしさんが作る緩い空間が、すげー落ち着くというか癒されるというか、気に入っている。




ただ二人で流れる雲をボーっと見送っていた。


















「シカちゃん。わたしね、就職が決まったんだ。」



「へー…って、マジっすか⁉」




がばっと勢い良く上体を起こす。



余りにも平然と言うもんだからそのまま聞き流してしまうところだった。




ななしも体を起こすと


「シカちゃんビックリしすぎ。」


と笑い、それがすごく綺麗な笑顔で見惚れてしまった。







「何というか…おめでとう。」




「ありがとう。」








そう言って空を見上げるななしさんの横顔は今までに見ていたものより大人びて見えた。






「社会人になるとさ、こんな時間ないんだろうね。」




寂しそうに眉を寄せて笑う姿に無性に心がざわつく。




「会えなくなるんだね。」



落ち着かない心に追い打ちをかけるようにその言葉は胸に刺さった。













「作ろうと思えば時間も作れるし。会おうと思えばいつだって会えますよ。」










そう返した言葉は自分に向けての言葉だったのかもしれない。






「うん、そうだね。シカちゃんは優しいな。」



ななしさんは寂しそうな目で笑った。









この学校は進路が決まったら卒業式まで自由登校になる。

と言っても名目上で、登校してくるやつなんかほぼいない。





「わたしね、このシカちゃんとの時間が大好きだった。今まで仲良くしてくれてありがとうね。」





ふわりと風で流れた髪を耳にかける姿を見ながら、これからここへ来ても会えなくなるんだなとななしさんの言葉を聞いて改めて理解した。



理解はしたけど飲み込めない。

胸に穴が空いたような感覚。

喪失感。









あぁ、俺は寂しいのか。



   

こんなにもななしさんの事を想ってしまっている。
  


自分の中にこんな感情があったのだと気づいてしまった。


















「シカちゃん?」





先程から黙って俯くシカマルにななしは心配そうに声をかけた。








「放課後…行きたい所があるんスけど一人じゃ入りにくくて、良かったら着いてきてくれません?」




「え⁉あ、うん、行こう。」

急な誘いに戸惑いながら、どこに連れて行ってくれるのか気になるーと笑顔でオーケーしてくれた。





























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