「敬愛の先」

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早朝、肌寒さを感じるようになってきた。




私は十番隊の門を通るとまだ明けきらない空を見上げて身震いをする。






いつもより早めに家を出たのは道場でひとり集中したいから。




隊長方と共に同じ部屋で業務するようになって、更に尊敬の念が強くなった。




追いつきたい、強くなりたい、認められたい。




まだまだ努力できる。




私はそう思うようになってから時間をつくっては鍛錬を重ねた。





刀を握る手のマメが潰れてしまい斬魄刀に血が付かないようガーゼを当てて包帯を巻いた。









道場へ来てから2時間程が経ち、そろそろ業務時間になるため支度を始める。





今日は一日席官を含む数名を連れて流魂街での見廻り業務なので、一度執務室へ寄ってから集合場所へ向かうことにした。

























執務室に着くと既に鍵が開いており隊長が席に座っていた。





遅くなってしまったなと思いながら、朝の挨拶をして自分の席へ着き今日のスケジュールを確認する。



十番隊は東側の担当で、流魂街でも治安が悪い七十から八十地区を見回ることになっている。







内容の書かれた書類に目を通していると、視線を感じて顔を上げた。






隊長と目が合う。






「な、なんでしょう?」




私は目が合ったことにドキッとした。





「いや…」




隊長には珍しく言い淀む。





どうしたのか心配になり首を傾げると、隊長は何でもないと話を終わらせてしまった。







何を言いたかったのか気になってしまったが、追及するのはよくないと思い踏みとどまる。






















「それでは、行って参ります。」




必要な物を持って斬魄刀を腰に差し声をかける。





「何もないと思うが、気を付けて行って来いよ。」






「はい。」




私は執務室を出た。

































集合場所である門の前に30分前に到着した。




まだ誰も来ていないみたい。




私は建物の影に入り雲一つない空をボッーと眺めていた。




すると左手の方から足音が聞こえてきたので視線を移す。




「ななし三席おはようございます。」




共に同行する第七席の竹添が一番にやってきた。





「おはようございます竹添さん。今日はよろしくお願いします。」







私と彼は仲が良い。





今では私の方が上位席官に当たるが、死神歴は彼の方がずっと長いため入隊した頃は色々と教えてもらったのだ。








その後続いて新人の花緒と夏木がやってきた。




皆10分前には集まり十番隊の隊士は優秀だなと思う。






「二人は流魂街の見回りは初めて?」





「「はい。」」



緊張した面持ちで返事をする二人。





「単独行動は禁止。何かあったら必ず報告すること。」




右手の人差し指を立てて順に目を見る。




花緒はコクリと頷き夏木はわかりましたと声を張った。





私は微笑むと、じゃあ早速出発しましょうと瀞霊廷の門をでた。
















竹添さんとの息の合った連携もあり見回りは何事もなく終わった。






朝集まった場所に戻って来た頃には太陽が傾き夕日が四人の横顔を照らす。








「隊長への報告は私がします。今日は慣れないことで疲れているでしょうからゆっくり休んでくださいね。では解散。」





その言葉で締めくくり報告へ向かおうとすると後ろから声をかけられ足を止めた。









「ななし三席。」




「どうしたの夏木くん。」




「あの、先月の瀞霊廷通信を拝見しました。」





「あ、あぁ…」




あれかと思い出すだけで恥ずかしくて顔が熱くなる。





「すごく綺麗で見惚れてしまいました。それに今日の指揮する姿もかっこよくて、それで…」






照れているのか赤く染まった頬を掻く。







「良かったら今度二人でお食事でもどうですか?」





予想もしていなかった誘いに、えっ?と声に出してしまった。





「迷惑でなければ…検討をお願いします。」




私が迷っていると返事は急ぎませんと彼は爽やかに去って行き、夏木の去っていった後もその場でしばらく固まっていた。
















































































 * * *








執務室の前までくると何やら中がいつもより騒がしい。






「ななし戻りました。」





扉を開けると眩しい笑顔で雛森副隊長が出迎えてくれた。





「名無しさんちゃんお疲れ様!待ってたんだよー」




「雛森副隊長!」




会うのはハロウィンの件以来だ。




驚く私を尻目に隊長の席の前まで両手を引かれる。




その様子を見ていた日番谷は自身の前に連れてこられたななしに声をかけた。




「ご苦労だった。」




その言葉に私は対面し背筋を伸ばす。




「見回り業務つつがなく完了しました。報告書は後程提出いたします。」





隊長は急がなくていいと少し口角を上げた。





「隊長名無しさんには甘々なんだから〜」



横から松本がからかうように言うと日番谷は眉間の皺を濃くした。




「松本と違ってななしはちゃんと仕事をするからな。」





「えー私もちゃんとしてますよぉ」




「どの口が言ってんだよ。」





大体今日もな、と毎度の言い合いを始める二人を見ながら苦笑いする。







「もうやめなよ二人とも。」






雛森副隊長が仲裁に入りその場を丸く収めた。




さすがだな〜と感心する。





「そうそう!今度ね乱菊さんと飲み会をしようって話をしてたんだけど名無しさんちゃんも来ない?」




「えっ、あ、それは是非お願いします。」




急に会話を振られて吃ってしまった。






「良かった〜」






くるりと振り返ってシロちゃんも来るよね?と日番谷隊長にも声をかける雛森副隊長。






「俺はいい、つかシロちゃん言うな。」






「シロちゃんはシロちゃんじゃない。」






「日番谷隊長だ!」





「はいはい、じゃあ日番谷隊長も参加ね!」





おい人の話聞いてんのか、という反論は無視して雛森副隊長は話を進める。






「大丈夫、絶対楽しいから!」





「そういう問題じゃなくて…」






言い合っているのにどこか楽しそうで、二人は幼馴染と聞いていたけど仲が良い姿を目の当たりにすると何故か心がざわついた。






























雛森副隊長が執務室を後にし、日番谷隊長は十三番隊に用事があると席を立った。

















「良かったんでしょうか?」




「ん?」





松本副隊長と二人になり聞いていいのかわからなかったが話しかけてみる。













「…日番谷隊長参加したくないようでしたが。」







飲み会…と不安気に付け加えると、私の気持ちを汲み取りポンポンと肩に手を置いて気にしなくて大丈夫よと笑いかけてくれた。






「隊長はね、自分が参加すると他のメンバーに気を遣わせると思って断ってたのよ。」





隊長も名無しさんも周りに気を遣いすぎね、と優しく目を細める副隊長。







私は何度も副隊長のこの優しさに救われている。





「他のメンバーって言っても修兵と吉良だから遠慮せず楽しみましょ。」







私からすれば尊敬する副隊長方の集まりなので気が抜けないだろうが、内心ワクワクしている。






側で微笑んでいる松本副隊長を見上げて私ははいと笑った。































副隊長が帰り執務室には私ひとりになった。









急がなくていいと言われたが今日中に報告書を仕上げておきたかった。









筆を走らせながら今日のことを思い出す。
















結局、夏木くんの誘いはどうしよう。





別に断る理由はないよね。






自惚れかもしれないが好意だったら期待をさせてしまうのかな。






考えすぎだろうか。

















飲み会は楽しみだな。





隊長たちとも、ましてや他のメンバーとも一緒に飲んだことがない。






想像して頬が緩む。









そういえば雛森副隊長は隊長の事シロちゃんって呼んでたな。




私は手を止めて暗くなった窓の外に視線を移す。




二人は心を許し合ってる。





隊長のあんな顔見たことなかった。





私には見せない優しい目をしてた。







雛森副隊長は藍染隊長が好きだけど日番谷隊長は?






もしかして雛森副隊長のこと…






行き着いた考えに胸がチクリとした。





なんでこんな気持ちになるんだろ。





私は隊長を尊敬している。





側で仕事ができるだけで幸せだしそれ以上は…







それ以上?







それ以上って何を求めてるんだ私は。








身の程を知らない自分に呆れ筆を握り直し報告書に執りかかる。

























集中してからは処理がスムーズに進みすぐに報告書は完成した。





戸締りをして自室へ向かう。




夜も冷えるな。




廊下は片側が中庭と面していて冷たい風が死覇装の裾から入り込んでくる。





「まだ残ってたのか?」





廊下の角を曲がったところで前から隊長が歩いてきていた。






「はい。報告書を終わらせたかったので…隊長は戻られるんですか?」





もう20時を回っていたので流石に戻って来ないだろうと思い執務室を閉めてしまった。





すると隊長は焦る私に気を遣ったのか、今日はこのまま帰る、と微かに笑った。






あぁ、この優しさが心に染みる。






微笑んでくれただけで鼓動が高鳴った。





「朝晩は冷えるからな、あったかくしとけよ。」




そういうと隊長は来た道を帰っていった。








先程まで寒さを感じていたのに今は何だか暖かい。







私は足取り軽く家路についた。














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