「敬愛の先」

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私が執務室での業務に慣れてきた頃、現世ではハロウィンと言う行事があることを知った。




「へ〜仮装してお菓子をもらいに回るんですか。」



現世の雑誌をペラペラめくりながら特集記事を見る。




「そうなの。なんか修兵がね、女性死神協会と合同でそれを特集記事にしたいらしいのよ〜」



瀞霊廷通信の売上が落ちてるみたいで、この前飲んだ時にお願いされちゃって、と机の上のお菓子を頬張る。




松本副隊長の話を聞きながら、人気の女性隊士に雑誌に載っている様なミニスカポリスやナースの格好をさせて売上をあげようという魂胆だな、なんて考えていた。




「松本副隊長もこんな服を着るんですか?」



想像するだけで瀞霊廷通信がアダルト雑誌になってしまうのではと心配になる。



「まぁ〜ね。」


私これにしようかしら、なんて言いながら楽しそうな顔をしてる副隊長を見て大変だなぁ〜、と他人事の様に聞いていた。
 



「それで名無しさんはどうするの?」




「…え?」




脳がフリーズする。




「もちろん名無しさんも参加するんだからね。」



ん?もちろん?参加する?


私の頭の中は軽いパニックを起こし思考が回らない。




「副隊長の私が言ってるんだから拒否権はないわよ。」



青ざめた私の顔を見て楽しそうに口角を上げる松本副隊長。




職権濫用だー!


私は心の中で叫んだ。


























憂鬱な気持ちで目の前の書類を処理する。



あの後、自分も強制参加することになったので詳しい話を聞くと、コスプレをして色々な男性隊士に『お菓子をくれないと悪戯しちゃうぞ♡』って言ってお菓子をもらうのよ、と説明された。





思い出しただけで頭が痛くなる。


なんでこんなことに…





私は頭を抱えていた。















「わからないとこでもあるのか?」




書類の処理を悩んでいるように見えたのか後ろから日番谷隊長が声を掛けてきた。




「っいえ!大丈夫です。」



私は焦って首を横に振った。




「…」




「だ、大丈夫ですよ、本当に。」




様子がおかしいと思ったのか隊長は尚も私を怪しそうに見る。







「…悩み事があるなら聞くぞ。」





遠慮がちに俺に言いにくい事だったら松本にでもいいから抱え込むなよ、と真剣な顔で心配してくれている。







隊長にこんな顔をさせてしまった…





「あの、私…コスプレをしてお菓子をもらう事になってしまって。」





「こすぷれ?」




隊長は聞いたことのない単語に眉間の皺を深くさせた。





「えっと、現世のキャラクターに扮装してお菓子をもらわないといけなくて…」




「なんでお菓子をもらうんだ?」




「それは…」




自分でも何を言いたいのかわからなくなってきた。




すると丁度いいタイミングで松本副隊長が部屋に戻ってきた。





「どうしたんです?2人して深刻そうな顔して。」





副隊長は目を丸くして私たちを交互に見る。







「ななしの話を聞いていただけだ。」



隊長は気を遣っているのか内容は話さなかった。




私はそれが申し訳なくて松本副隊長に助けを求める。




「特集の相談をしていたんですが上手く伝えられなくて…」






「あぁその話ね。」



「松本は知ってるのか?」



「知ってるも何も私から持ちかけた話ですよ。」






そして松本副隊長は説明を続ける。




「瀞霊廷通信の来月の特集記事なんですけどね、可愛い女性隊士たちがセクシーな衣装を着て『お菓子くれないと悪戯しちゃうぞ♡』って言い歩くんです〜」







「…はぁ?」


なんだそれ、と呆れたように言う隊長。




「それが現世で流行りのハロウィンって言う行事なんですよ。」





色々と訂正したいところがあるが、ややこしくなる為ぐっと飲み込む。





「それをななしも参加するのか?」



「そうですよ。だって可愛いもの!」



すかさず返答する松本副隊長。




「隊長も楽しみでしょ?名無しさんが可愛いセクシーな衣装でお菓子をねだってくる す・が・た♡」




「な、何言ってるんですか!松本副隊長!」



私は慌てて顔を真っ赤にして止めに入る。




隊長は片手で口元を押さえ背を向けた。




絶対笑われた。



恥ずかしくて居た堪れない。






松本副隊長は楽しみだわ〜と言って自分の席につき仕事を始めてしまった。









隊長は振り向くと、嫌なら断れよ、と言って席に戻って行ってしまった。





断りたくても断れないんです!



私は泣きたくなった。


























































































 * * *















そして当日。



人気女性隊士30名程が衣装を着ることとなり、そのメンバーほとんどが上位席官クラスである。



かなりの反対意見があったが、女性死神協会会長である草鹿やちるによってほぼ強制参加となった。



当然と言えば当然だが卯ノ花隊長と砕蜂隊長は不参加だ。




砕蜂隊長曰く、売上貢献など手伝う義理はないとのこと。




惜しくも…本当は喜ぶべきものだが、人気女性隊士ベスト30にランクインいてしまっていた私も最後まで断れずに、松本副隊長の選んだ衣装を着ることとなった。



会長である草鹿副隊長はドラキュラ。


副会長の伊勢副隊長はメイド。


雛森副隊長はミニスカポリス。


松本副隊長はナース…以下省略。



そして私はチャイナドレス。




白地に金色の模様が施され、深々とスリットが入っている。



ここまで足を出したことがないので大丈夫なのか心配になった。







「似合ってるじゃない名無しさん!」




ナースに着替え終わった松本副隊長が部屋へ入ってくるなり目を輝かせた。





「そうですかね?」




褒められて嬉しいがつい苦笑いになってしまう。






「…松本副隊長は、その…大丈夫ですか?」




薄ピンク色の短いスカートに胸元ががっつり空いたナース服。



いつも胸元はがっつり空いているが、これは私でも目のやり場に困る。






「やるからにはこれぐらいしないとね!」





グッと親指を上げてウインクする松本副隊長。






まぁ楽しんでいるようなので良しとするか…






隣にいる雛森副隊長は恥ずかしがりながら、紺のタイトなミニスカートの裾を握りながら足をもじもじさせている。






うん可愛いな。



暢気にそう思ってしまった。






「準備できたら隣の部屋へ行くわよ。修兵が待機してるから。」








私たちは松本副隊長の後に続いて部屋を出た。
















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