「温もりを知ったから」

□1年ズ
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※数年後の話です。





















虎杖は大きな欠伸をしながら食堂へ来ていた。





「おはよー」





気の抜けた声でそう挨拶を交わすと、虎杖はテーブルの上にトレーを置き伏黒の向かいの席へと腰を下ろす。





「お前朝からカレーかよ。」





「いいじゃん!名無しさんさんの作るカレー最高に旨いんだわ、伏黒も食べてみ?」





「知ってるよ。でもさすがに朝からは重いだろ。」





眉を寄せた伏黒は綺麗に巻かれた玉子焼きを頬張る。





「そんなの関係ないわよ。」





その言葉に答えたのは虎杖でなく先程食堂に入ってきた釘崎だ。





片手で器用にトレーを持ち、虎杖の隣の椅子を引いて座った。





「……お前もか。」





伏黒はテーブルの上に置かれた湯気の立つカレーを呆れ顔で見下ろした。





「美味しいものは何時だろうが食べれんの。」





「釘崎おはよ!やっぱお前はわかってんねー」





虎杖は同じ考えの釘崎を見て嬉しそうに笑う。





「あんた、口の横に米粒ついてるわよ。」





「えっマジ?」





虎杖は指で口の左右を触る。





「あ、ホントだ!おい伏黒なんで教えてくんないんだよー」





伏黒はそんな虎杖の言葉には答えずに味噌汁を啜っている。





同じ寮に住んでいても三人そろっての朝食は珍しい。





そこまで広くない食堂が一気に騒がしくなる。






「今日の授業って午前中が座学だっけ?」





「そうよ、五条先生が仕事だから伊地知さんが代わりに見てくれるって。あんた聞いてなかったの?」





「昨日実習で疲れ過ぎてバテてた。」





あははと笑いながら頭を掻く虎杖をジト目で睨みつける釘崎。





二人の会話を伏黒はボーっと聞いている。





















「だからいつも洗濯は私に渡してって言ってるでしょ!」





「だってさー名無しさんの体調が心配なんだよ。」

















厨房の入り口で言い合う声がして三人は揃って顔を向けた。






「ん、あれ五条先生と名無しさんさん?」




「だな。」






虎杖の声に呆れ顔で見ていた伏黒が答える。






















「だからって伊地知さんをパシリにしないの!これくらいは大丈夫だから。」





「ぷー」





「ぷーじゃない!いい歳した男がそんな顔しても可愛くないんだからね!」





名無しさんは腕を組むと、口を尖らせ頬を膨らます五条を見上げる。























「五条先生が怒られてる。」





珍しい光景に虎杖は興味津々だ。





「いつものやつだろ、首突っ込まない方がいい。」





「うんうん触らぬ神に祟りなしって言うし。」





二人は随分とドライな対応。





「え、いつもあんな感じ?」





「そうよ知らなかったの?」





「知らない知らない。五条先生と名無しさんさんって仲良いのな。」






この言葉に伏黒と釘崎は呆然と固まる。





「ん、どったの?」





虎杖は最後の一口となったカレーを口の中へいれた。







「お前知らないの?」





伏黒は呆れを通り越して引いた目付きで虎杖を見る。





「何が?」





「信じらんない、感心無さ過ぎ!」





釘崎は呆れた様に言うとカレーを口へ運んだ。





「え?」








口論が終わったのか、ちょうどタイミング良く名無しさんさんがお盆を持ってやってきた。






「おはよう!」





母の様に微笑む名無しさんに三人はおはようございますと答えた。





「これ試作のゼリー、良かったら食べてみて?」





名無しさんは可愛い花柄の器に乗った果肉入りのゼリーを三人の前に置いていく。





「デザート?やった名無しさんさんありがと!」





「ありがとうございます。」





釘崎と伏黒は笑顔でそれを受け取る。






いつもと違って反応のない虎杖に名無しさんは視線を送る。






「虎杖くん、どうかした?」






虎杖は名無しさんの腰辺りを注視している。





「……五条?」





呟いた言葉を聞いて名無しさんは虎杖の視線をたどり名札を見る。





「名無しさんさんの苗字、五条って言うの?」





「そうよ。」





虎杖の顔が青くなりそのただならぬ様子に名無しさんは大丈夫?と声を掛けた。





「大丈夫なんだけど、もしかして名無しさんさんて五条先生の……」







「そうだよー僕の愛しのハニーでーす(ハート)」





いつの間にやらこちらに来ていた五条が、スッと名無しさんの腰を引き寄せる。





「えぇ!?マジで?」





大声を上げた虎杖は驚いてガタリと音を立てて椅子から立ち上がった。






「変な事したら悠仁でも許さないから気をつけてね。もちろん恵も。」





黒いオーラを纏いながらニンマリと笑う五条に三人の顔は引きつる。





「こーら、生徒に変な圧かけない!」





名無しさんはベチっと五条の頬に張り手を食らわす。





「もー名無しさんが可愛いから僕は心配なの。」





赤くなった頬を擦りながら五条は口を尖らせた。





「はいはい、生徒の前で恥ずかしいこと言わないで。」














目の前でイチャつく二人を見ながら、虎杖は初めて見る光景にスゲーと釘付けになっている。






「五条先生にここまでできる名無しさんさんって最強じゃね?」






「そうだな。」





何度も目の当たりにしている伏黒は、はぁ〜と溜息を吐いた。






「いくら最強と言えども、可愛い奥さんには敵わないみたいね。」





釘崎はニコニコと笑いながら二人にスマホを向けて写真を撮っている。












「あ、悟もう出る時間じゃない?」





「ほんとだ。」





「門のところまで見送りに行くからちょっと待ってて。」






名無しさんはエプロンを外しながら厨房へと消えていく。






「愛されてんねー五条先生。」





虎杖が揶揄う様に言うと、五条はもちろんと嬉しそうに口角を上げた。






「生徒の前でイチャつかないでください。」





伏黒は眉を寄せて注意する。





「そう言って恵は羨ましいんでしょ?名無しさんのこと姉の様に慕ってたしね。」





「え、そうなの?」




「ぷぷー伏黒ヤキモチなんて可愛い。」





「お前らうるさい!」





伏黒の怒声が食堂に響く。





その後お待たせと名無しさんが戻ってきた。





「門までは遠いから校舎出たところでいいよ?転んだら大変だし。」





「大丈夫!悟は心配し過ぎなのよ。」





「でもさー」





「ちょっと外に出てくるけど、みんなは気にせずゆっくりしていってね。」






名無しさんは五条の言葉を遮ると、ほらっと声を掛けて五条と並んで食堂を出ていた。







「ホント仲良いわねあの二人。」




「でもちょっと五条先生過保護過ぎん?」




「まぁ、仕方ないんじゃないか。」





伏黒の意外な言葉に虎杖と釘崎は揃って視線を向けた。






「名無しさんさんお腹に子どもいるし。」





「「えーーー!?」」





「それマジ?」




「うそ!知らなかった。」





騒ぎ立てる二人と対照的に伏黒は淡々と説明を続ける。






「元々名無しさんさんは一級呪術師で、妊娠を理由に五条先生が高専の寮母に転身させたらしい。」





「まじかー五条先生がパパって想像できねぇ。」





虎杖は渋い顔でギューっと眉を寄せる。





「ほんと……あんなチャランポランがパパか、名無しさんさん苦労するわね。」





釘崎は難しい顔で頭を抱える。










窓の外に二人の歩く姿が見えて虎杖たちは揃って視線を向けた。





五条は名無しさんの腰に手を回して支えるように肩を並べている。





そして顔を見合わせると二人は幸せそうに笑っていた。













「愛されてんねー名無しさんさん。」



「そうね。」



「そうだな。」





三人は視線を戻して笑い合うと、花柄のお皿に乗ったゼリーを食べ始めた。
















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