「温もりを知ったから」

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温かい。






何かに包まれている様な感覚に、私の意識は覚醒していく。






ゆっくりと目を開けると、視界に映ったのは見慣れない天井だった。







体を動かそうとすると、腰の辺りが重くて同時に倦怠感に襲われる。







顔を動かすとすぐ近くに五条さんの綺麗な顔があった。







あぁ、私あの後寝ちゃったんだ。






起きたての回らない頭で昨日を思い返す。







デートをして、お互いの気持ちがわかって、流れで五条さんの家に泊まることになって。






何もしないと言いながらしっかり抱かれてしまったことを思い出す。







……恥ずかしい。





なんて早急な。







昨日の情事を思い出し顔に熱が集まる。






行為自体、元カレの時以来だったのであれで大丈夫だっただろうか。






変じゃなかったかとか、幻滅されていないかとか、そんな事が心配になってきた。









ごそごそと動いたせいか五条さんは、んーと眉を寄せ瞼を開いた。






まだ半分程しか開いていない目で私を見ると、五条さんは口元を緩ませる。






「…おはよう名無しさん。」





掠れた声が色っぽくて胸が鳴る。






「おはようございます……」





好きな人と共に朝を向かえるなんて、何となくくすぐったい。







五条さんの手からスルスルとシーツが落ちて、私の髪に触れる。





細い指が優しく頭を撫で髪を滑っていく。







「二日連続。朝起きて名無しさんの顔を見れるなんて幸せだよ。」






そう言ってはにかむ五条さんを見て、すごく幸せな気持ちになった。






五条さんってこんなに可愛かったっけ?







「私も……幸せです。」






触れ合う肌から伝わる体温が、温かくて心地いい。






寝惚け眼の五条さんが近づいて、軽く唇を合わせると背中に回っていた腕に力が入るのがわかった。






好きになったせいか、そんな行動ひとつ取っても愛おしく感じる。






「それにしても昨日の名無しさん、めちゃくちゃ可愛かったな。」






五条さんは昨日の夜の事を思い出している様で、悪い顔をしながら私を見ている。






「い、言わないでください!」






恥ずかしくて仕方ない。






好き同士とはいえ、想いが通じたその日に勢いで体を重ねてしまった。





耳まで熱を持っているのがわかる。






「照れてる〜かっわいい。」





「怒りますよ。」





そう言って睨みつけるも効果が無い。






「相性良いと思うよ、僕たち。」






「……」






「あれ、気持ち良くなかった?あーんな声出してたんだからそんな訳ないよね?」






ニヤニヤと笑顔を向ける五条さんの表情に、また昨日を思い出してしまう。







ほんとデリカシーなさすぎ!






もう無理、顔が見れない。






私は両手で顔を覆うと蚊の鳴く様な声で







「……気持ち良かったです。」






と正直に伝えた。







「好きな人とすると、あんな気持ちいいんだね。」






サラリとそんな事を言うので、胸がいっぱいになって苦しくなる。






五条さんは真っ赤になった私の前髪を上げると、額にチュッと口付ける。





指の間から五条さんを見ると透き通るようなアクアブルーの瞳がスッと細まる。






あぁもう、なんでこんなに一人ドキドキしてるんだ。





五条さんの胸に顔を埋めて目を閉じた。






トクトクと聞こえる五条さんの鼓動も僅かに早い気がする。





なんだ、私だけじゃないみたい……






そう思うと緩む頬を見られない様に、顔の近くにあった五条さんの服を掴んでいた手に力を入れる。






五条さんは腕の中に収まった私の頭を優しく撫でていた。






そのままもう一度眠ってしまいたかったが、そろそろ起きないと伊地知さんが来てしまう。





私は五条さんの腕の中でもぞもぞと動いて顔を上げた。






「五条さんシャワーを借りてもいいですか?」





「ん、いいよ。一緒に入る?」





「……遠慮します。」





「えーいいじゃん!」





「……また今度。」





困った様に言うと、その言葉忘れないでよと渋々諦めてくれた。





私はベッドから出ると、床に散乱した服の中からシャツを拾って腕を通す。





流石に裸でうろつく勇気はない。





五条さんの服なのでそれ一枚でも余裕でお尻の下まで隠れた。





ズボンと下着を拾っていると刺さる様な視線に顔を上げる。






見ると、五条さんが真剣な目でこちらを凝視し、片手で口元を覆っていた。






心なしか頬が染まっている気がする。






「それ、エロすぎ……」






この格好のことだろうか。





五条さんの反応に急に恥ずかしくなった。






「……もう一回抱きたい。」





潤ませた目で懇願するように呟かれた声に、心臓が悲鳴を上げる。





「だ、だめです!」





私はそう言って逃げるように寝室を出た。






浴室に入ると勢いよく蛇口を捻り、シャワーの水を頭から浴びる。





なに今の。




もう一回抱きたいって……





声とか表情とか、怖いくらいに色っぽくて。





私の心臓は未だに不自然なくらい脈打っている。





五条さんの抱きたいって言葉、殺傷能力があるんじゃないの?






胸が苦しい。





あぁ、こんなんでこの先大丈夫かな私。





徐々に水がお湯へと変わっていくのを感じながら、脈を平常へと落ち着かせた。














私がお風呂から出ると入れ替わるように五条さんがお風呂場へ。






脱衣所に居て良いと言われたのでそのまま髪を乾かす。





軽く化粧を終わらせた頃に五条さんが出てきた。





腰にタオルを巻いただけの姿。




髪にはまだ水滴がついている。





綺麗な白い肌に程よく鍛えられた体。






私の視線に気づいたのか、五条さんは触ってもいいよと身を屈める。






「い、いいです!すみませんジロジロ見てしまって。」






私はしまったと思いながら背を向けた。






「すぐに出て行きますね。」





急いで化粧品をポーチにしまう。





「いいよ別に。髪、まだでしょ?」





いつも仕事の時は髪を結っている。





まだそこまでできていなかった。





「名無しさん反応が可愛いから、ついいじめたくなちゃうよ。」





五条さんはそう言ってククッと喉を鳴らす。





何も言い返せずに、ここで出て行くのも不自然だと、私はお言葉に甘えて髪のセットを始めた。





五条さんはサッと服を着ると、ドライヤーで髪を乾かしだす。






こうして並んで朝の準備ができるなんて広い脱衣所だ。






私はコンビニで買っておいた歯ブラシを出して歯磨きをする。






五条さんも後ろでシャコシャコと歯磨きを始めた。






鏡に映る五条さんと目が合って優しく微笑まれる。






照れ臭い様な変な気分だ。






並んで歯磨きをしているだけで一気に恋人感が出るなと思った。







「その歯ブラシ、置いていっていいからね。」





口を濯いだ後タオルで拭きながらそう言って五条さんがニヤリと口角を上げる。





「あ、ありがとうございます。」





私は五条さんの歯ブラシの横に自分の歯ブラシを立てた。





置いていっていいという事は、また泊まりに来ていいってことなのかな。







並んだ歯ブラシをみて頬が緩む。



















リビングに戻ると五条さんがコーヒーを淹れてくれた。





「僕がコーヒーを淹れてあげるなんて名無しさんだけだよ?」





「ふふ、ありがとうございます。」






あの五条さんが私の為にコーヒーを用意してくれるなんて……と感動する。





はいと手渡されたマグカップを自分の方に引き寄せると、湯気とコーヒーのいい香りが漂う。






私はふぅふぅ冷ましながら口を付けた。






ブラックコーヒーの筈だが仄かに甘く感じる。






胃の辺りからジワーと温かさが体に染み渡っていく。






横を見ると五条さんもマグカップを持って砂糖たっぷりのミルクコーヒーを飲んでいる。






あぁ、なんて良い朝なんだろう。






私は心に満ちた幸福感を噛み締めた。









もうすぐ8時半になる。






名残惜しいが伊地知さんが来るまでに帰ろう。






そう思いながらも五条さんが淹れてくれたコーヒーをじっくりと味わった。












「そろそろ帰りますね。」





「もうそんな時間か〜」





五条さんの肩が下がり見てもわかる程に落胆している。






「名無しさん、ちょっと。」





「はい?」






私は手招きされて五条さんに近寄る。






そして流れるように抱きしめられた。








「五条さん……」






「約束して欲しいんだ。」






「約束、ですか?」





「うん。何かあったら絶対、連絡して。」





普段よりも低くて真剣な声に胸がギュッとなる。





「……はい。」





「何かなくても連絡していいよ。」





今度は先程よりも明るく陽気な声。






「ふふっ、はい。」






体が離れると大きな手が頬に触れた。






「僕もできる限り連絡取るようにするからさ。」






そう言ってくれた五条さんが嬉しくて私はコクリと頷く。






「あれ、僕ってこんな過保護だった?」






可笑しそうに笑う顔がすごく綺麗で、胸が温かくなる。






「意外です。」






「新たな一面。これってギャップっていうの?」






ふざけた感じで言うので、そうかもしれませんねと笑って言った。









私は玄関で靴を履き終えると、背の高い五条さんが身を屈めたので咄嗟に目を瞑る。





唇に柔らかいものが触れて、それからゆっくりと離れていく。






優しいキスは微かに甘かった。







「じゃあ、気を付けて行ってらっしゃい。」





「五条さんも、気を付けて。」





「……うん。」






玄関を出て振り返ると、手を上げている五条さんに行ってきますと微笑みかけて静かに扉を閉めた。








こうして、朝誰かに見送られるのは初めてだ。






嬉しくて温かくて、少しだけ切ない気持ち。






私は肩に提げた鞄の紐をギュッと握ると、広いエントランスを抜ける。






すっかり秋の空になった高い雲を見上げて、澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込んだ。




























































【あとがき】

ここまで長々とお付き合い頂きありがとうございました。
不自然な部分や、表現が乏しい箇所、気分を悪くされたところがあったと思います。
申し訳ございませんが素人ですのでご了承ください。
読んでいる間、少しでも楽しんでドキドキして日頃の疲れが癒されたら、という思いで書き上げたました。
管理人がイメージする五条悟は、好きな子ほどいじめちゃう、めちゃくちゃ過保護、そんな感じです。
番外編も計画しています。
気長にお待ちください。
ありがとうございました。

管理人 結咲



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