「君の手をとるまで」
□01.はじまりの段
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〖第一章〗
-序幕- (山田利吉)
その日は、今冬、最後の雪が降った日だった。
こんな中を出歩いている理由は……父、山田伝蔵へ着替えを届ける為だ。
いい加減、洗濯ぐらいご自分でなさって欲しいと思いながら、利吉は忍術学園へ向かっていた。
山の麓に差しかった所で、白雪の中、一人の女がしゃがみこんでいるのを見つけて足を止める。
この様な気候下で薄手の衣一枚なんて、違和感でしかない。
利吉は細心の注意を払い、女の背に声を掛けた。
「どうかされましたか?」
肩をビクリと揺らし振り返った女を見て、時が止まったかと思った。
周りの雪に溶け込んでしまうかの様な白い肌。
寒さで桃色に染まった頬。
ぷっくりと形の良い赤い唇。
艶のある長い美しい髪。
そして、引き込まれる様な大きな澄んだ瞳。
大袈裟かもしれないが、今まで十八年間生きて、こんなにも綺麗な人を見たことがなかった。
私を見た女は、絶望に似た表情で、不安そうに瞳を揺らした。
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