「雲間に咲く」
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水曜日、私とミツは買い物を済ませお団子屋に来ていた。
来週のカカシさんとの食事に向けて作戦会議と言うわけだ。
実際はそんな大層な事ではなく、私の心を落ち着かせるためのお茶会。
「ミツ〜どんな服で行ったらいいのかなぁ」
男性と二人で食事に行った経験が無さ過ぎて私は頭を抱えていた。
「そうねー、カカシさんはどんな感じが好みなんだろう……無難にワンピースとか?」
腕を組んで共にう〜んと唸る。
気合を入れて行ったら引かれそうだし、入れなくても引かれそうだし。
どっちにしろダメではないか。
テーブルに突っ伏し、ただただ不毛な時間が過ぎていく。
好きな人の事になるとこうも決められなくなるのか。
一つのことで迷って悩んで……
「恋って大変……」
そう呟いた私をミツは頬杖をついたまま見下ろしている。
「大変なだけじゃないわよ。」
首を動かして見上げるとミツはニコっと眩しい表情だ。
「嬉しい事もたくさんあるんだから。最近、毎日楽しいんじゃない?」
確かに。
顔を見るだけでドキドキして、笑ってくれただけで幸せな気持ちになる。
そうかもと言う私の表情を見てミツは優しく目を細める。
「カカシさんと上手くいくように、私も応援するからね!」
「ふふ、ありがと。」
いい友に出会えて良かったと頬が緩む。
「な、なっ……それは一体どう言う意味ですか!!」
急に背後から震える声が聞こえてバッと振り返る。
「「ガイさん!」」
私とミツの声が見事にハモった。
会話を聞いていたのか体がワナワナと震えていて、そのままグイっと顔を寄せると今の話は一体、と目を見開いている。
「あの、ガイさん……」
余りにも近い距離に両手を翳すと、ガイさんはそれに気づいて少し下がった。
「すみません、たまたま聞こえてしまって……その、さっきの話は。」
ガイさんは申し訳なさそうに頭を触り眉を寄せている。
もうこのタイミングしかないと私は決心した。
「ガイさんごめんなさい。こんな形で伝えるつもりはなかったんですけど、私カカシさんの事が好きなんです。」
そう真っすぐ目を見て伝えると、ガイさんは私の隣にストンと力なく座った。
「そうでしたか。」
放心といった状態で固まるガイさんを横から見つめる。
しばらくしてガイさんが私の方へ顔を向けると二ッと白い歯を見せた。
「応援します、ななしさんの恋を!」
思いも寄らぬ言葉に面食らってしまった。
「私はななしさんが好きです。ですが、カカシの事も友として好きなんですよ。アイツは頑固でよく無理をする、それに一人で何でも抱え込もうとするんです。」
一度息を吸うとガイさんは言葉を続ける。
「カカシには陽だまりの様に暖かくて明るい、しっかり者のななしさんがピッタリです。」
そう言ったガイさんの表情はキラキラと輝いていて、胸の奥が熱くなった。
私への想いも、カカシさんへの想いも、熱く真っ直ぐ純粋で、何だろう……すごくカッコいい。
「ガイさん……ありがとうございます。私、頑張ります。」
決意を籠めて言うと、グッと親指を立てて歯を見せてくれた。
その後、私たちは揃ってお店を出た。
リーくんが迎えに来たことによってガイさんと別れ、ミツと二人家に向かって歩ている。
「ガイさんかっこよかったね。」
ミツは先程の事を思い出している様で、私はそうだねと相槌を打った。
「見方が変わっちゃった。」
「私も。」
視線を合わせるとどちらともなく微笑む。
「あのねミツ。」
「ん?」
「実はまだ話してないことがあって……」
「えっなになに!?」
ミツは大きな目を更に開いてパチクリさせる。
「カカシさんと家がお隣なんだ。」
「それホント!?」
驚愕して大きくなった声に通行人がチラチラとこちらを見ていく。
「ほんとだよ。」
「すごい偶然じゃない!そんな事ならドンドン近づいてアタックしましょ!」
ミツは細い腕を上げて力こぶを作りニッと笑う。
その様子が面白くて噴き出してしまった。
「きっと運命だよ!神様が巡り合わせてくれたんだー」
興奮して一人盛り上がっていくミツに私は苦笑いした。
* * *
立ち話をしていたせいで家に着くと17時を過ぎていた。
冷蔵庫を開けて何かないかと探ってみる。
「今日は焼きそばでも作ろうかな〜」
期限が迫った中華麺を見つけてキャベツと人参豚肉を取り出す。
野菜を切って手早く焼きそばを作ると、冷たい麦茶と共にテーブルへ並べた。
いただきますをして口いっぱいに頬張る。
「うん、美味しい。」
キャベツ多めに作るのが父直伝の名無し流だ。
直伝のと言うほどでもないか、と一人心の中でツッコむ。
ぺろりと食べきると根が生えない内に洗い物を済ませた。
続けてお風呂に入りリラックスモードに突入すると、床に置きっぱなしになっていた紙袋を開く。
中には今日雑貨屋さんで買った風鈴が入っている。
箱から取り出し手に持って提げてみると、窓から流れる風に揺られチリンチリンと清らかな音をたてた。
上が透明で下にいくにつれて淡青色が濃くなる。
太陽が反射する海を連想させるそれは、たくさんあった中で一目で気にいったものだ。
椅子を移動させ窓際に風鈴を取り付ける。
チリンチリンと音だけなのに2度くらい気温が下がった気がした。
うん、いい感じ!
私は満足して椅子から降りると少し早いがベッドに横になった。
目を瞑って風鈴の音を聞くと心が穏やかになっていく。
カカシさんは家にいるのだろうか。
この音が聞こえていたら涼しさをお裾分けする事ができるのに。
私はベッドの上にあったタオルケットをお腹の上に掛けるとふぅ〜と息を吐き出す。
好きになるとこんな自分が変わってしまうんだな。
気になって、会いたくなって、私と同じ気持ちならいいのにと願ってしまう。
この壁の向こう、すぐそこにはカカシさんがいるのに酷く遠い。
隔てる壁一枚がすごく分厚い物に感じる。
「……んー」
私はギューっと眉間に皺を寄せた。
なんだかストーカーみたいで自分が気持ち悪い……
そんな気持ちを払拭する為に寝返りを打った。
あーあ、結局今日は何も決められなかったなぁ〜
ミツが言ってたからこの間買ったワンピースにするか。
私はそんな事を考えながら、うつらうつらと夢の中へ落ちていった。
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