「雲間に咲く」

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 どうしてこうなってしまったのか。

メラメラ燃えるガイさんと、どこ吹く風と至極冷静なカカシさんが目の前で対面している。

助けを求めてななしがアスマの方を見ると、ニヤニヤ楽しそうにこちらを鑑賞しているだけだった。


「止めなくていいんですか?」

「ほっとけーいつもの事だ。」


 これがいつもの事なの?


「でも…」


 不本意だが、私に相応しい男を決める勝負と言い出したガイさんを無視する訳にもいかない。


「こりゃー面白くなってきたな。ガイは兎も角カカシまで…」


 アスマはクツクツと喉をならすと、楽しそうに口角を上げる。

横の紅も始めこそ驚いていたが、今はふふっと笑みを浮かべていた。

 この人たち楽しんでる、全然止める気ない!

どうしよう。

ななしは仕方なく視線を二人に戻す。

そもそもカカシさんは私を狙ってないし、巻き込まれてさぞ迷惑だろう。

そう思っているとカカシさんが口を開いた。


「はいストップ。」


 片方の手の平をガイに向けて制止を求める。


「なんだカカシィ!!」

「今からななしちゃんたちとお団子食べるんでしょ?いいのオレと勝負なんかしてて。」

「むむむ。」


 カカシの言葉にガイはグッと眉間に皺を寄せた。


「こんな機会滅多にないだろうし、ななしちゃんと仲を深めるチャンスなんじゃない?」

「うむ、確かに。カカシを倒したとて、ななしさんの心を手に入れられるとは限らん。」


 良かった。

何とかカカシさんの説得で勝負はなくなりそう。

ななしはホッと胸を撫で下ろした。


「よーし!!ではななしさんを喜ばせた方が勝ちと言うのはどうだ?」


 いや、全然納得してない!


「だーから、勝負は要らないって言ってんの。」


 呆れているカカシにガイは尚も突っかかる。

声の大きさから、何事かと店の外からも私たちは注目を浴びた。

これ以上周りに迷惑をかけたくないよ。

ななしは困り果て口を曲げた。


「じゃあこうしたらどうだ?」


 今まで傍観に徹していたアスマさんが声を上げ、私たちは揃って注目する。


「ななしにこれからどうしたいか決めてもらう。」

「えっ」

「おお!それはいい案だな!ななしさん教えてください。あなたの望むことを。」


 少し身を引いたななしを食い入るように見つめるガイ。

一瞬躊躇したが、このタイミングなら話を聞いてくれそうだと口を開く。


「……皆で楽しくお話しながら、美味しいお団子を食べたいです。」

「そう言うことだ。」


 目を丸くしたガイにアスマが言う。

そして、後ろからお店のおばちゃんが来て「そんな事じゃ女のハートは射止められないよ。」とお団子をテーブルの上へ置いた。

ガイさんはそれを聞いてシュンとしながら私の隣の席へ力なく座った。

おばちゃんの言葉が相当刺さった様だ。

ガクリと項垂れた様子に居た堪れなくなる。


「元気のないガイさんはガイさんじゃないですよ。一緒に食べましょう?」

「ななしさん、あぁなんて優しい…天使だ。努力しますあなたに認められる男になるために!」


 又もやがっちりと両手を包まれた。

そうこうしている内に、ガイの反対側にカカシが座りアスマが声をかけた。


「珍しいじゃねーか、カカシが団子屋に入ってくるなんてよ。」

「あれだけ騒いでたら気にもなるでしょ。」

「へー……それだけか?」

「それだけだよ。」


 ななしは何とかガイの手を逃れ、振り返ってカカシに顔を向けた。

できるだけ小声で話掛ける。


「カカシさん、巻き込んでしまってすみません。」

「いや、気にしないで。」


 にこっと笑ってくれたがあの絡まれ方は申し訳なさすぎる。

尚も眉を寄せているななしにカカシはフッと頬を緩めた。


「自ら巻き込まれに行ったんだよ。」

「え?」


 意外な返答にななしは目を丸くした。


「ほら、お団子乾いちゃうよ?」


 何もなかった様に、お団子の乗った皿を取りやすい様に手前へ動かし、カカシは食べるよう勧めた。

そこまでされると流石に深追いできない。


「そうですね……」


 ななしは流れに任せて三色団子の桜色を口に入れた。

モチモチとした触感。

ほんのりとした甘みが広がり、うっとりと顔が綻んだ。


「カカシィ!ななしさんのハートはこの俺が射貫くからな!!お前なんかには渡さんぞぉ!」


 ガイはななしの肩越しに、未だ睨みを利かせている。

パクパクとお団子を食べ進めながら。


「はいはい。」


 わかったから黙って食べなさいよと、ガイとは対極的に覇気のない声色でカカシは答えた。


「余裕だな!だがそんな顔をしていられるのも今の内だ!」


 ガイはそう言うと、完全に気を抜いていたななしにグッと顔を寄せた。


「愛しいななしさん、期待していてください!!」


 親指を立ててナイスガイなポーズで言い切ると、白い歯を一段と輝かせた。

圧で押され、私は声を出せずに笑顔を向けることしかできなかった。


「じゃあオレ仕事あるから。」


 後ろで声がして振り向くとカカシはスッと立ち上がった。

先程カカシが注文したお団子はまだ一本も減っていない。


「カカシさんお団子は?」

「あぁ、これはななしちゃんとミツちゃんで食べて。」

「え?でも…」

「いいのいいの、じゃまた。」


 ななしはミツと顔を見合わせると、出て行くカカシの背に「ありがとうございます!」と急いで声を掛けた。

カカシはいつもの様に顔だけ振り返って笑顔を向けると、サッと姿を消した。

いつ置いたのかわからなかったが、カカシがいたテーブルの上には、ちゃんとお金が乗っていた。

すごい早業。

ミツと二人あまりの速さに呆気に取られていた。


「キザなことするわね。」

「ほんとだな。」


 紅とアスマは示し合わせた様に笑った。

隣ではガイが「クソーカカシめ。」と悔しそうにしている。

ななしとミツはカカシが注文したお団子を有難く分け合った。

 アスマさんたちがお店を後にして、私たちはお茶を飲みながら引き続きゆっくりとしていた。

後から聞いた話によると、カカシさんは甘いものが苦手だったらしい。

皆で一緒にお団子を食べたいと私が言ったから気を遣ってくれたのだ。

悪いことをしてしまった。

本当どこまでイケメンなのか。

カカシさんができる男すぎて恐ろしくなる。


「カカシさんめちゃくちゃかっこよかったね。」

「うん、そうだね…」


 ミツは紅さんに続きカカシさんもリスペクトする対象だと認識した様だ。














 * * *



 お団子事件があってから二週間ほど経ったが、あれからカカシさんとは会えていない。

改めてお礼が言いたいのにと、その思いは募っていくばかりだ。

まさかとは思うが、ガイさんに誤解されたから、気を遣ってお店に来ないようにしているんじゃないだろうか?

それとも何か気に触る事をして嫌われてしまったとか?

日が経つごとに、私の思考は悪い方へ悪い方へと傾いていく。

今日はミツが休みの地獄の日で、それも相まってか、朝からどんより気分は落ち込んでいた。

だめだめ、こんな顔してちゃ!

笑顔だ。

ロッカーの扉に付いた鏡を見ながら私は笑顔を作る。

よーしOK!!

気合を入れるとななしは更衣室を出て準備を始めた。

 今日は定食に付くポテトサラダ作りを手伝う。

茹でたジャガイモの皮を剥いて潰し、胡瓜は薄く輪切りにして塩揉みをする。

ベーコンとスライスした玉葱を炒めて材料は揃った。

秘伝のマヨネーズと酢で味付けをしたら完成だ。

開店10分前になりななしは暖簾を掛けに外へ出た。

 今日も空は快晴で、日差しが強くて暑い。

夏がやって来ようとしている。

台を引き出して上り、カコッと音をさせて暖簾を掛けた。

台から降りようとしたところで、後ろからザッザッと足音が聞こえて振り返った。


「よう。」

「アスマさん!」


 カカシさんかと思って期待してしまったのが恥ずかしい。


「噂になってんなぁ。」

「え?何がですか?」


 口に咥えた煙草を揺らしながら、アスマさんは器用に話を続ける。


「二人の上忍から熱烈なアタックをされた美人看板娘ってな。」

「な!?なんですか、その噂!!」

「この前の団子屋のやつだろ、外まで丸聞こえだったからな〜」


 店の外からも視線を感じていたので、色んな人が聞いていたんだろう。


「間違った噂が流れるのは困ります!」

「ほぼ真実だろ?」


 悪い笑みを浮かべているアスマさんに「ガイさんは何とも言えないですが、カカシさんは巻き込まれただけじゃないですか。」と反論する。


「そうか?あながち間違ってない気がするけどな。」

「もう!揶揄うのはやめてください。」

「至って真面目だぞ俺は。」


 楽しそうに笑うアスマさんに「どこがですか!」と私は口を尖らせた。


「そう怒るなよ。」


 煙草の煙を纏った手が、頭をポンポンと撫でた。


「ところで、ご飯を食べに来てくれたんですか?」


 いつもなら暖簾を出す前でもズカズカと入店してくるので、店先で話すのは違和感があった。


「いや、居酒屋の予約がしたくてな。」

「ご予約ですね、ありがとうございます!」

「来週の土曜、19時から4人で頼む。」


 ななしはエプロンのポケットから取り出したメモ用紙にスラスラと書き記す。


「確かに承りました。」

「ななしはその日の夜、出ないのか?」


 アスマさんは横を向いて、フーっと口から煙を吐き出した。


「夜は基本出ませんけど…どうしたんですか?」

「いや、残念だなと思ってよ。」


 何が残念なんだろ?


「気が向いたら出てくれよ。」


 その言葉で、私はアスマさんの狙いがピーンと閃いた。


「あ、もしかしてガイさんが来るんじゃないですか?」

「おっ勘が良いじゃねぇーか。」


 ガイさんと私の掛け合いを見て楽しむ気だと分かって「もうアスマさん!!」とななしは声を上げた。

怒ったつもりだったが、はははっと笑われて全く気にされていないとわかる。

ガイさんの気持ちにどう対応したらいいのか悩んでいると言うのに。


「あとこれは予約に関係ないが、明日カカシが任務から帰ってくる予定だぞ。」

「え?ぁ、そうだったんですね…」


 ななしの言葉を聞いてアスマは微かに口角を上げた。

お店に来なくなったのは任務だったからか。

……良かった。

嫌われてる訳ではなくてホッとした。

でも、何でアスマさんはそれをわざわざ教えてくれるんだろ。

お礼が言いたいってバレてたのかな?


「ここに来るかは知らねぇーがな。じゃあ予約頼んだぞー。」


 アスマさんは言うが早いか足を動かし始めていて、慌てて背中にお待ちしておりますと声をかけた。

ふぅーと息を吐くと「よぉななしちゃん、もう開いてる?」と常連のおじさんが歩いてきた。


「いらっしゃいませ!もう開店してますよ。」


 ななしは言いながら通れるように店の扉を開けた。

「悪いね。」と言いながらおじさんは店に入っていく。

悩みが晴れてスッキリした。

カカシさんが店に来たらしっかりとお礼をしようと心に決めて、よーし今日も頑張るぞとななしは足取り軽く店に入った。















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