シリーズ物テキスト
□流星雨(3)
1ページ/7ページ
『流 星 雨(3)』
どうしてこうなんだろう。
大事なものを失いたくなくて、鍵を掛けてしまいこんでしまう。
大事なのに。大事だから。それと向き合うことを恐れてしまう。
触れることも眺めることも諦めて閉じ込めてしまう。
鍵をなくしてから泣いても、遅いのに。
これまで何度も繰り返してきた愚かな過ちを痛感しながら、栄口は川べりの道をふらふらと自転車を押して歩いていた。
どれくらいの時間が経過したのだろう。太陽を失った空は、その名残を湛えた深い藍色に染まりつつあった。
「…水谷、怒ってた」
違う、怒らせた。
感情を露わにすることなどほとんどない水谷が、涙まで浮かべていた。
栄口が距離を置こうとしていたことにも、ちゃんと気づいて、それでも待っていてくれたのに。
その優しさに気づかなかった。
ただ怯えるばかりで、水谷のことを見ることができなかった。向き合うのを恐れて、取り繕って遠ざけた。
何よりも大事なのに。
その代償が、これだ。もう水谷の友人でいることすら許されないのだろうか。
湿気と熱気を含んだ空気が、ねっとりと肌に絡みつく。行き場を求める栄口の足をその場に引き留めるようだ。
不快な暑さのはずなのに、背筋が寒い。
それから逃れる場所を探して、栄口はただ懸命に足を動かしていた。