九龍小説
□ご当地グルメ。
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「はぁ―……生き返る…。」
魂の井戸に入り真っ先に口を開いたのは九龍だった。
中は彼の予想通り暖かく感じられた。
「寒かったね。」
取手は寒さに頬を赤くしながら肩の雪を払う。
「寒いから鍋でも食って暖まろう。」
今まで化人の遺留品や部屋のものを漁っていた九龍が取り出したのは、カニすきだった。
メインのカニ以外にも白菜や椎茸など馴染みの野菜も煮込まれ、ぐつぐつと土鍋の中で熱そうな音を立てている。
初めのうちこそ、ベスト等から出てくるそれらにいちいち疑問を感じていた皆守や取手含む他のバディだったが、今となっては特に疑問も持たない。
慣れとは恐ろしい。
九龍はいつの間にか用意したカセットコンロに土鍋を置くと、早速着火した。
「やっぱり寒いときは鍋だな。」
皆守が呟いて、鍋を囲んで3人が座り込む。
そこで鍋の中身をまじまじ見た皆守はある物を発見した。
「なぁ、九ちゃんよ。カニ鍋だったよな?」
「甲ちゃん、これはカニすき。似たようなものだけど…。」
「この際そこはどっちでも良い。俺が聞きたいのは…。」
皆守がすっと箸で持ち上げたのは赤々と茹で上がった尻尾。
無論、世間一般の常識としてカニに尻尾はない。
しかしこのカニすきにはエビの尻尾よりも細く、それでいて節はしっかりと存在する尻尾らしきものが入っていた。
「率直に聞く。メインの具はなんだ。」
聞いた所で彼の中には既に答えはあったが認めたくない。
その様子を見ていた取手はキョトンとしている。
「何って…カニ風にした宇萬良(ウマラ)だけど。」
至極当然のように言い放つ九龍に次の瞬間、電光石火の踵落としが見舞われた。
ちなみに宇萬良とは初めの区画より世話になっているサソリ型の化人である。
「こんな危ないカニすきがあるかぁぁぁ!!」
「ヒドいよ甲ちゃん!!サソリってカニの親戚だよ?!陸に住むカニでしょ?!」
踵落としのダメージから早々立ち直った九龍は熱弁する。
「勝手にサソリの戸籍を変えるなよ!住む場所も違い過ぎるわ!大体カニに尻尾はない!!」
「だったら陸に住むエビでいいよ!」
「最早カニすきじゃないだろうが!!」
言い合いを始める2人に取手はオロオロしつつ、カセットコンロの火を弱めた。