願わくば
□行違い様
1ページ/1ページ
鏡の前で最終確認をして部屋を飛び出す
向かう先は…
「あ、マチー!フェイタン知らない?」
部屋を出てすぐに見えたマチにそう訊ねるも、すぐに失敗したと気付いて曖昧な笑みを浮かべた。
が、時既に遅そし…
マチは露骨に嫌な顔をしていた。
「また、あいつのとこ行く気?」
「す…少しだけ、だよ?やっぱり…なんか、気になるから…」
普段よりも低く、怒気を含んだ声は明らかにフェイタンの元へ行く事をよく思っていない。
本拠地に帰ってきて丁度2週間がたつ。
それは同時に、一部の記憶を失っていると知らされてからの期間でもある。
記憶を失っていることは、帰ってきた翌日にパクノダから告げられ、記憶を調べた事ついて謝罪された。
本人確認をするためとは言え、記憶を探ってしまったことにパクは罪悪感を抱いていたようだけれど、そのお陰で発見出来たのだから、私としてはある意味感謝だ。
何より、もし同じ状況に私がいたら、私もパクと同じ事をしていただろうから…
「ナツ、アイツには関わらないで」
「……」
マチから毎日のように言われる言葉に私はただマチを見つめ返した
なんで?
どうして?
そう聞きたいけれど、マチの放つ雰囲気がそれを躊躇させる。
沈黙の中、マチから感じられるのは怒りよりも悲しみの感情。
なんで…マチが悲しむんだろう…
どうして…
私がフェイタンに近づくのを頑なに反対するのだろう
問える人はいない。
だって、旅団の皆はマチ同様、私がフェイタンに近付く事をよく思っていない。
数日前、フェイタンについて質問したときも曖昧にはぐらかされた。
どうしてなのかは分からない。
でも…
私は…
「ごめんね、マチ…でも、私嫌なんだ…忘れた記憶をそのままにしておくのは…」
「そんなっ、アイツの記憶なんて…思い出しても…っ」
そこまで言うと、マチは悔しげに唇を噛み締めた
何か言いたげなマチに、戸惑いながらも笑みを向ける
「……手に入れなきゃ気がすまないんだよ…」
そう、失ったものをいつまでもそのままにしておくことなんて出来ない。
「私も皆と同じ、盗賊だから。」
そう言うと、目を見開くマチを背に私は走りだした。
胸の奥のざわめきに…
気付かないふりをして。
===
==
=
木陰の下に、晴天とは似つかわしくない黒いシルエットを見つけ駆け寄る
「フェーイタンッ」
声を弾ませてそう呼ぶと、鬱陶しそうに眉を寄せた顔が振り返った
予想通りの反応に、思わず笑みを浮かべる
「地下にいなかったから、絶対ここだと思ったんだ。…何してるの?」
「…来るなと言たはずね」
「あ、本読んでるの?」
「ワタシに近づくな」
お互い噛み合わない会話を気にすることもなく、各々好き勝手に動くのはいつものことだ。
私はフェイタンの隣に座って手元の本を覗き込んだ。
最初のうちは隣に座ることはおろか、近づくことすら出来ない状態だったけれど、最近は毎日来る私に諦めたのか、隣に座っても逃げたり攻撃をしてきたりはしない。
まぁ、眉間に皺は寄ったままだけれど…
それよりも…
「フェイタンって、なんでいつも一人でいるの?」
毎日一緒にいて気付いたが、フェイタンは大抵いつも一人だ。
というか、団員達がフェイを腫れ物のように扱っているようにも見える。
マチ意外とは、仲悪そうには見えないんだけどな…
気になった事をそのまま口にしてみると、今まで本のページを捲っていたフェイタンの手が止まった。
居心地の悪い沈黙が、辺りを支配する。
もしかして、気にしてたのかな…
意外にも、気に障る事だったのかもしれない。
恐る恐ると言ったように隣を伺い見ると、そこには射殺すような鋭い瞳があった。
「お前に関係ないね」
言い放たれた言葉の冷たさに、一瞬たじろぐ。
フェイタンの作り出す雰囲気や表情が、『お前は関係ない。』という言葉を、綾などではないのだと感じさせた。
確かに関係はないけれど…もっと優しい言い方は出来ないのだろうか。
もし、フェイタンに好意を寄せている人が聞いたら傷つくどころの話ではない。
しかし、気に障る事を言った私が悪いので、一応謝罪の言葉を述べる。
「ごめんね」
苦笑いを交えながら言うとフェイタンが怪訝そうに眉を寄せた
どうしたの?
そう聞き返そうとした瞬間―――
「フェ……イ?」
隣にいたフェイが瞬時に移動し、目の前にいた。
顔の横に置かれた手によって、木とフェイの間に挟み込まれるような状態になる。
「…それ……ワタシ…知らないね……」
少し擦れた声が、何の脈絡もない言葉を紡いだ
「何、が?」
「そんな顔、知らないね」
『行違い様』
彼らは擦れ違う一歩前…
.