願わくば

□願うものは?
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フェイ達が帰った後、私はすぐに天空闘技場を離れた



贅沢をしなければ、一生楽して暮らせる程のお金も貯まったし、もうここにいる理由もない








ふらふらと当てもなく歩きながら見る空は、何故かいつもより遠く思えた




私は…
何をしたいんだろう…




本当に、これでよかったのかな…?








最近いつも考えてしまうのは、もしもあのまま蜘蛛にいたら。 という事。





もし、あのまま蜘蛛にいたら、フェイタンと話す事は無理でも姿だけは見れたのに…







「ぁあぁあー…本当何考えてんだろ」



フェイを忘れるために旅に出たのに、なんで、こんな事考えてるの…






それに…フェイタンが来たことで、あやふやになっちゃったけど、クロロのあれは…





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クロロSide



外から帰ってくると、広間のソファで一人、ゲームをする横顔が見えた



「まだいたのか…シャル」


深夜3時を過ぎた時間に、広間に人がいるのは珍しい




「団長、ナツはどうだったの?」




「ナツはまだ暫く帰って来ないと言ったはずだ。」



天空闘技場から帰ってきた数日前にも、投げかけられた質問に、小さくため息をついた





「そのことじゃないよ」



いつもより、少し低い声に眉を寄せる




「じゃあ、なんだ」





広間に入ってから初めて、顔をあげたシャルと目があった




好奇心の中に苛立ちを含んだ目に、口元だけを緩める




「何が言いたい」



聞かずとも、言いたい事は大体わかるが…




「ナツに、何をした?」




「お前に言う必要はない」



シャルはゲームの電源を切ると、机の上に置いた


いつもの愛想のよい顔は引っ込め、滅多に見せる事のない鋭い眼差しを向けられる




「ナツは頑固だけど、我が儘な女じゃない。蜘蛛の為に帰って来て欲しいと言ったら、嫌々ながらでも帰ってきたはずだ。」





何をしたの?そう再度問い掛けられ、不意に頭に過ぎる映像…


拒絶するナツの細い腕と泣き声…


そして…


一人の人物しか写さぬ瞳…



それらを振り払うように、シャルに背を向けた




「お前が入り込む隙なんてないぞ」




咄嗟に口から出た言葉は、まるで自分に言い聞かせるような物。




そうだ。


ナツの中に、フェイ以外の誰かが入り込む隙間なんてまるでない


そんな事は…
オレが1番理解していた




「オレは団長とは違うよ。」




挑戦的な声に自室へと進めていた足を止め、首だけを後ろに向ける



その先には、いつもと同じ…

愛想のよいシャルナークがいた。




「オレはナツの事を妹だと思ってるから」




本気とも嘘ともとれる笑みを浮かべるシャルに、張り詰めていた空気が解けていく




「……本当に…そうだといいがな」




笑みを浮かべるシャルに微笑を返し、オレは正面へと向き直った






「はぁー…空気が重いと嫌になるよ。
マチ達はずっと機嫌悪いし。フェイタンなんて、あれから帰って来ないしさ」



「そうか…」




いつもの調子に戻ったシャルの愚痴を背中に、遠くのナツへと想いをはせる




「早く帰ってきてくれないかな…ナツ」




帰ってきて…か。



オレだってそう思う



だからこそ…
らしくもなく、後悔をしているんだ




ナツ…



もう、オレの隣でなどとは言わない


だから…


早く…
お前の笑った顔が見たい




『願うものは?』
後悔の先にある







 

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