main(小話)。

□白詰草
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「…ぃ…さん…
にぃ、さん…?」

舌足らずな、
柔らかい声。

「もぅ…にぃさんてば!
どうしたの?
きゅうに、ぼ〜っと
しちゃって…」

春に咲く、
野花の匂いが。

甘く、青く、
ほのかに香る。

「あ…!
どこかイタいの…??
ケアル、しようか?」

清水湧く泉のように。
青く澄んだ、
あどけない目。

案ずるように
見上げてくる、
人形のような
愛らしい面立ち。

『あ…ううん。
……大丈夫だよ。
心配させてごめん』

「じゃあイタい
とこ、ないんだね?
よかったぁ」

安堵の顔で私に
微笑む、愛しい弟。

泣き虫で。
甘えたがりで。
芯の強い、優しい弟。

『ありがとう』

小さな身体を、
そっと抱く。

子供らしい、
ミルクのような
甘い匂い。

布越しに感じる、
温かな柔肌。

…天使みたいだ、
なんて、柄にも
無い言葉が浮く。

『お前は、優しいな』

無垢な瞳に微笑みかけ、
指で優しく髪を撫でた。

絹糸のような銀髪は、
陽光に照らされて。
雪解けの雫のように、
穏やかな輝きを
湛えている。

その清らかさが、
眩しくて。

…謀らずも、
微笑むように
目が細まる。

「えへへっ…にぃさんに
ほめられちゃった」

くすぐったそうに
照れ笑い、薄桃色に
頬を染める。
緩く包んだ腕の中で、
そうして私に
はにかむ姿も、
本当に愛くるしい。

「ねぇ、にぃさん。
もう…はしれる?」

ややあって、
腕の中で身動ぐと。
弟が問いかける。

『うん?大丈夫だよ?
どうしたんだ?』

「えっと…ぼくね、
にぃさん、と…
おにごっこしたい」

「…ダメ、かな?」

おずおずと、
要望を紡ぎながら、
伺うような上目遣いは。
ふわふわと緩く波立つ
銀髪も伴って、まるで
仔犬か仔猫のようで…

『ううん、
そんな事無い。
一緒に遊ぼう?』

「ほんとう?
やったぁ〜♪」

嬉しそうに
にっこり笑う、
無邪気な姿を。
ずっと愛でて
いたくなるのを、
ぐっと堪え…

ようやく腕から、
解放してやる。

『じゃ、まずは
鬼を決めないとな』

「うんっ!
じゃんけんだね!」

背を屈めて
目を合わせると、
悪戯な笑みに似た、
挑むような
目を返された。

意外に負けず嫌いな
面に、少年らしさを
ひしと見受ける。

「いっくよぉ?
じゃん、けんっ…」

幼い闘志に光る瞳が、
拳を握る腕を、振る。

昼下がり、
陽光注ぐ草原に。

風に乗り、
白い綿毛の
群れが飛んだ。

*****


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