MIX 2

□余計なことを言わないで
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ラタ様精霊発覚後





そうと決まれば話は早かった。






→余計なことを言わないで






ぼうっと割りと強い風が吹き付ける甲板に一人で座り込み何をするでもなく空を見、とろくさく流れる雲を眺めていた。
暇を持て余すとはまさにこの事、仕事しろと誰か例を挙げんなら家の腐れ縁の堅物騎士あたりに言われそうだが生憎と張り切りすぎた若い連中に殆ど仕事を持ってかれてすることがねぇのが現状だ。
部屋に居ても何にもならねぇうえに此処に到るまででお目当てのあいつを見付けられなかった事が気に入らずに無意味にこんな場所に座り込む。
ああもういっその事暇つぶしに誰かと一戦交えてくるか、って乗ってくれそうな奴らは総じて依頼に出てて船にはいねぇのか。
リッドじゃねぇけどこのまま何もないとマジで寝ちまいそうだ、今日はいつもより日差しが柔らかく風が強い分かなり居心地がいいからうつらうつらと瞼が下がり始める。
けどまあ少しくらいはと抗いもせずに瞼を落として暫く経った頃に不意に無防備に晒した背中に重みが加わって驚いた。
そこそこ温かい温度が背中越しに伝わって身体を必要以上に動かさねぇようゆっくり首だけで後ろを向けば薄い色素の金髪が見える、風に煽られて一房飛び出たあほ毛が揺れてんのが妙に和む。
全くもうちょっと早く出て来てくれりゃあいいってのに。


「ラタ」

「ねぇ、ユーリ。」


名前を呼んだ俺の声に被せるように発せられた聞き慣れた、けれどもあいつの声よりはいくらか高めで柔らかな声。
振り向けない今はそれで判断するしかねぇんだろう、その声は俺の求めたあいつの物とは違う、不満が無いことも無いが一応言葉の続きを促す為に体勢を変えずに「なんだ?」と聞き返せば向こうも体勢を変えずに俺に言葉を返した。


「ラタトスクが隠してること、教えてあげようか?」

「ラタの隠し事ねぇ。...どんな?」

「ユーリへの気持ち......かな。」


抑揚の無い穏やかな声がそう告げた、どちらかと言えば激しい感情ばかりが表に出やすいあいつからは中々聞けない類の声。
耳を撫でる声質は違うがそれはそれでまんざらでもなく静かに耳を傾けながらさっきまでと同じ様に空を見上げながら続く言葉を待つ。
知りたくない訳がねぇ、けれど急かすほどの事でもない、「あのね」と前置きを作る俺の背に凭れる様に身体を預けてくる奴に焦れることは無かった。


「ユーリがラタトスクの事を好きだと言う度彼はすぐに怒るけど、本当は嬉しいんだ。」

「へぇ、初耳だな。」

「口には出せないだけで、ラタトスクだって本当はユーリのことを想ってるんだよ。」

「それは流石に分かってるつもりだよ、じゃなけりゃラタが甘んじて俺の隣にいるとは思えねぇしな。」


軽々しく何度も何度もこっ恥ずかしい「好きだ」「愛してる」なんて言葉が吐けるほど気障でも博愛主義でもない、だがラタが相手ともなると面白いくらいにその手の言葉が口から飛び出てくる。
言われ慣れない言葉に顔中を赤く染めて遠慮なく拳で俺を殴りながらとんでもない罵声を飛ばしてくるラタを見る度思わず笑いが込み上げる。
様は好きでたまらねぇんだと、気付いちまったら飛んでくる拳に対して腹を立てることも無かったし、ひとしきり暴れた後不器用に自分が殴った箇所を撫でるラタには心底煽られた。
思い出して笑う俺を置いてくっついた身体が僅かに揺らぐ。


「そうやってユーリが全部受け入れるから、ラタトスクが甘えてしまうんだよ。」

「いいいじゃねぇか、思いっきり甘やかしてやるよ。」


自分がここまで世話焼きだとは思わなかった、面倒なことは嫌いな筈なんだがそれを面倒だとは思わねぇ位には惚れてるらしい。
楽しくて仕方がねぇんだって、お前が可愛いんだって一体何時になったら気付いてくれるんだろうな?なんて背中に向かって問い掛けたが小さな間を挟んで返って来たのは「さあ」なんて連れねぇ言葉。


「ユーリの隣は居心地が良いんだって。」

「自分じゃよく分からねぇな。」

「......だから、ずっと隣に居たいんだって。」


何気ない呟きはとてつもない重みを持って圧し掛かる、ずっとが無理な事くらいは俺達の暗黙の了解に他ならなくて、俺よりもその事実から目を背けたがっていたのはあいつだ。

これから話すのはラタの隠し事と俺への気持ちだと言った。
なら今までの言葉全部をあいつの本音ととって構わねぇんならあいつと違って俺にはあいつへの隠し事なんてのは最初から無いが、俺もあいつに本音で向かってやるべきなんだろうな。
そうと決まれば話は早かった。


「えっと、これ以上喋るとラタトスクに怒られちゃうから僕もう行くね。」


困惑気味な声色とともにそそくさと逃げるように離れていく背に触れ合っていた身体、さっきまではこの体勢が丁度いいとばかりに凭れ掛っていたくせに随分と逃げ足が速い。
立ち上がりホールへと向かう身体を腕を掴んで引きとめたってのに振り返りもせずに「離して」と請う。
此処で振り向いて穏やかな緑を俺に向けたなら勘違いって事であっさり解放してやろうと思ってたってのに、やっぱお前は詰めが甘いわ。
体勢的にはちょっと力が要ったが引き寄せた身体は崩されたバランスに抗うことが出来ずに俺の脚の間に尻を着く。
逃げられちゃ堪らねぇから両腕でしっかりホールドしてやると暫く身じろぎはしたが、やがて居た堪れなくなって俯いた。


「ラタ、こっち向けよ。」

「......嫌だ。」


柔らかな金髪が頬を撫でる、耳元で名前を呼んでやればさっきとは違ういつもの低い声といつもの不機嫌そうな声色が返って来る。
やっぱこの方が落ち着くがたまにはああいう素直なのも悪くねぇなと思いつつ「ならそのまま聞いとけよ」と頭を撫でた。


「俺の限界まで、ずっと隣にいればいい。」

「......」

「それでも足りねぇなら、また生まれてお前といてやるよ。」

「......確証の持てねぇこと言ってんじゃねぇよ。」


ラタと名前を呼んだがシカト、ちょっと乱暴だが特に抵抗の無いことをいいことにこっちを向けた顔は言葉こそ不機嫌だったがほんのりと赤く染まっている。
じわりと胸の奥が熱い、暴れまくってどうにかなりそうだ。
そうして開き直ったようにもぞもぞと腕の中で体勢を変え肩に凭れて俺を眺める、きっと船が地上に降りてクエストに出た奴らを回収するまでは俺に甘えててくれるらしい。
挑発的に光る赤い目は完全に毒だ、ほんと理性がいくつあっても足りやしねぇが甘やかしてやると言った手前早々に甘やかされるのは格好つかねぇから我慢だな。
たまにはこういうだらけた日も悪くねぇ、髪を掻き分け額に口付けても抵抗が無いなんていつもこのくらいなら......いや、ラタならなんだっていいか。


「お前さ、本音くらい面と向かって言えよ。」

「誰が言うか。」

「マルタには男前なくせに、俺に言うのは恥ずかしいのか?」


滅多に本音が聞けねぇのは少し不服だが俺に対しては羞恥が勝つってんならマルタより上位にいるような気がして気分が良いのもまた本音。
なによりエミルの振りして誤魔化す様に打ち明けてくるラタも中々可愛いじゃねぇかと笑い、問い掛ければげんなりした表情で呟く。


「あんたが余計なこと言うから、言いたくねぇんだよ。」


言いたいことはよく分からねぇがご機嫌を損ねちまったのは事実らしい、いつもどおりそっぽを向いちまったラタは名前を呼んでも視線すら合わせてくれずに困る。
嗚呼全く機嫌を直してくれよと、さっき嬉しいと言われたついでに「好きだ」と囁いてみたんだがこれについては開き直ることは出来ねぇらしい、瞬時に顔を朱に染めたラタの鉄拳が脳天にクリーンヒットした。












→あとがき
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