MIX 2

□キューピッドは語る5題 5
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なんだかお見合いみたいだわ。






→ようやくこの日が






昨日、私はエミルがいなくて落ち着かないカイウスを「エミルときちんと話をするまで部屋には入れない!」ってカイウスを一晩部屋から追い出した。
カイウスは結局その日は帰ってこなかったけどそこまで私に言わせておいて逃げ出すような根性無しじゃ無いと思ってたからそれ程気にも留めずにいたのだけど、カイウスったらまさかエミルに何も言えずにキュッポ達と一緒に寝てるとは思わないじゃない!!
信じて損したわ、憎らしいくらい気持ちよく寝てる所をたたき起こせば「色々あったんだよ!」と顔を赤く染めて抗議してくる。
ああそう、要するに恥ずかしかったのねと図星を突いてあげればバツが悪そうにそっぽを向いてしまう。
はぁ、と溜め息を吐いて一度カイウスをそこに待たせておいて私が向かったのは私達の部屋の隣にあるイリア達の部屋、なんでかってあの二人の部屋は最早『エミルとカイウスを如何にかし隊』の対策本部になってるから。
あの二人の関係にヤキモキしてるのはそれこそギルド中だとは思うけどその中でも一番被害を被っているのは、あの二人と何かと接点の多い私達4人なのだ。
扉を開けば本来いるべき二人の他にマルタの姿もあってきっと私と同じ理由なんだろうと詮索することを止めて早急に話し合いが始まる、その中でルカの発した爆弾発言に私達はちょっと乱暴だと思ったけど乗ることにした。


「どう、ルビア。見える?」

「ん〜、なんとか。」


誰も使ってない空き部屋の扉を薄く開いて中を覗き見る、定員は一名様のみだからきっちり情報を伝えないといけないから責任は重大。

二人っきりにして閉じ込めてやればいいんじゃないかって、ルカらしからぬ乱暴な提案に一度は戸惑ったけどあの二人だけに任しておけば解決するものも解決しなくなるから私達はその提案に乗った。
問題はお互いがお互いに恥ずかしがって逃げる事だったんだけど試しにマルタが部屋にエミルを呼びに行って戻ってきたところ、何でだかラタトスクモードになっていたエミルが私達の提案を聞き入れカイウスを自ら引き摺ってこの部屋に入ったんだからびっくりしたわ。
マルタ曰く「あっちのエミルもヤキモキしてたんだね。」と言われて思わずみんなで同情してしまう。
ラタトスクモードから戻ってまた逃げ出そうとしたエミルを今度はカイウスがそれとなく引きとめようやく落ち着いた空気になった部屋を私は覗き込み、みんなは壁に耳をあて聞き耳を立てていた。


「......えっと、その、昨日はごめん。」

「い、いいよ、別に。」


昨日何があったのかは知らないけど仲が良いのが嘘みたいにギクシャクした空気が二人の間に流れてどこか初々しい感じがする、なんだかお見合いみたいだわ。
椅子に座ることも忘れて立ちっぱなしでお互いを見つめながらなにか話だそうとすれば言葉が被って二人で俯く、もうっそんなまどろっこしさはいらないから早く本題を切り出しなさいよ!
伝わるはずなんて無いけどそんな勝手極まりない要望を心の中でカイウスに投げかければ驚いたことに通じたようで一際大きい声でカイウスがエミルの名前を呼んだ。


「な、なに?」

「あの、さ。」

「うん?」

「俺、エミルに言いたいことがあってさ。」


話題を切り出そうとしてるけどやっぱり羞恥心は残ったままなのか目を伏せながらエミルを見上げて遠慮がちに口を開く。
火蓋を切ったはいいけど何から話せばいいのか悩んでいるみたい、いきなり正直に好きだなんて言える人ならそもそもこんな風なもどかしい展開にはならなかった筈、当然といえば当然のこと。
あとはやっぱりマルタのことかしらとチラリと隣のマルタを一度見て部屋の中へと視線を戻した、これはエミルがきっぱり否定してくれないことにはどうしようもないわ。


「僕、僕も。カイウスに絶対言わなきゃいけないことがあるんだ。」

「......なら、エミルから聞かせてくれよ。」


まだ言えそうに無いんだと力無さ気に笑ってようやく後ろの椅子に腰掛けたカイウスの前に立ち、動揺してしばらく迷って「いいよ」と笑う。

珍しいと思った、相手に気を使うことや遠慮することをカイウスは無意識に行うことはあったけどこんな風に無防備に甘えているところを見るのは初めてだった。
私とカイウスの喧嘩も多分気安さから来る甘えが引き起こしていたことなんだと思う、必要以上に気を使わなくていいから本当は言わなくてもいいことまで言ってしまう私達の関係、私達の態度。
そんな私に対して見せる甘えとは別のもの、反抗することを止めて穏やかに相手を見つめて、拒絶されることを恐れているくせにそれでもその口から自分の求める言葉が零れることを期待してる。
凭れ掛かるような甘えじゃなくて、小さな子供が縋るように親の手を引いているようなそんな幼くて拙い甘え方。
嗚呼やっぱりエミルが好きなのね、そんなあなたが隠そうとしたって無駄だってどうして気付かなかったのかしら?


「僕、カイウスが好きなんだ。」


ぱちりと大きな目を丸く見開いてちょっとだけ身を引きそうになったカイウスの手にエミルの手が柔らかく重なって優しくその場に留めた。
こっちからエミルの表情は見えないけど言葉通り穏やかな表情をしてるんだろうってことは手に取るように分かる、続けられた言葉にも迷いなんて感じなかった。


「自分の事とか色んなことで悩んでも目を逸らさずにきちんと向き合える強さ、僕に見せてくれる優しい笑顔と声、僕と違って考えをすぐに口に出来る勇気のあるところも、きみの全部が好き。」

「......エミル。」

「カイウスといると凄く幸せな気持ちになるんだ。だから...」


言葉が不自然に途切れる、聞き耳を立てているみんなはそれに少し動揺したけど静かに事の状況を静観している。
緩やかな動作でエミルがカイウスの前に片膝を着いてまるで騎士様のように跪いた、それがあまりにも格好付いていて思わず私はそれに見惚れる。
柔らかく重ねていたカイウスの手を恭しく掬い上げる、まるで物語の中のような光景を目の当たりにしたカイウスは頬を赤く染めて分かりやすく動揺してるけどエミルから目を逸らすことはしない。


「僕をきみの近くに居させて、きみを支えさせて。......カイウスが好きなんだ。」


まるで当然であるかのようにその手の甲に口付けてカイウスを見上げるエミルは、言いかけたカイウスの言いたいことをもう分かっているようにも感じた。
カイウスからの言葉を強請るエミルに覚悟を決めるように一度ブラウンの瞳を瞼に隠して深く息を吐く、顔を出したその目に戸惑いや羞恥心は見つからなかった。


「俺も、エミルが好きだ。」

「...カイウス。」

「お人よしなところも、気弱なくせに変に頑固なところも、種族のことなんて何も気にせず接してくれるのも、二重人格なところも、勿論お前の全部。」


穏やかな表情で笑う、自信の無さや自分の種族のせいでエミルを避けていたのが嘘みたいに嘘偽り無く自分の気持ちをエミルに伝えるカイウスがとても凛として見えた。
不釣合いにも程があるとは思うけど今の光景が王様と騎士様のように見える、ああもうっ、私の目は一体どうしちゃったんだろう。

でも、ようやくこの日が来たんだ。
椅子から腰を上げて立ち上がったカイウスを追ってエミルが立ち上がる、お互いを見つめて笑いあう姿はとても幸せそうで自分の事みたいに嬉しくなる。
他のみんなもほっと息を吐いてお互いに笑いあう、この二人に一番ヤキモキさせられていたのが私達なら一番幸せになって欲しいと思っていたのだって私達だもの。
小さくみんなでハイタッチをして喜びを分かち合っているとぱたぱたと足音がして声がこっちに近づいてくる。
慌ててみんなで物音を立てないようにその場に背を向けたけど幽かに聞こえた言葉があまりにも大人になりたいカイウスらしい言葉で笑った。


「あのさ、エミル。さっき見たいなのはもう無しな、恥ずかしいだろ。」

「あ、ごめん。」

「あと一方的に支えられるのは嫌だからな、俺とお前は対等、それでいいだろ?」

「うん、これからよろしくね。カイウス。」

「よろしくな、エミル!」


この日、私達は恋のキューピッドになった。












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