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□びーどろチャンポン
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「あ、」


初めて通った細い裏道で

偶然に出会った。





「…何だ、その格好」

「何だって…見れば分かるでしょ」


「…」


「お祭りよっ!
お・ま・つ・り!!」





さっきまで仲の良い友人達と一緒に屋台を見て回っていた。


皆で浴衣を着て祭りを楽しむ。


一年に一度許された至福の時。



久々に見る友の姿は変わらず、
しかし、時間だけが風のように過ぎていった。



今は家へと帰る途中。





「…なるほど。
どうりで人が多いわけだな」


そう言うネジの眼は
テンテンの背後の人混みへと向けられている。




「任務帰り?」

「あぁ。さっき終わった」



浴衣で飾ったテンテンとは対照的に、
ネジは
背景の薄暗い闇にも溶けてしまいそうな

そんな雰囲気を漂わせている。





「えへへー」


「…何だ」



「お祭り行こ?」




「…は…?」



テンテンの言葉に、
ネジは“行きたくない”と言わんばかりの表情をする。


「お前…もう行ったんだろ」


「いいじゃない!ホラっ!」

「っオイ!」



少し強引に彼の服の袖を掴んで
元来た道を引き返す。





ネジの背後にあった静寂はどんどん遠くなり、


かわりに

祭り独特の華やかな空気が
どっと押し寄せて来る。




「私の浴衣姿が見られたんだから、
ありがたいと思いなさいよねー!」




彼女の髪飾りが
ゆらゆらと楽しそうに揺れる。


狭い道に響いていた下駄の音は、
やがて聞こえてきた大勢の人間の生み出す
幾重にも折り重なった音と同化して聞こえなくなった。



「…そうだな」



小さく呟いた声は
あっという間に呑まれてしまったが、

彼女の手に触れて
その想いを伝える。




「はぐれるなよ」




この波によって引き剥がされないように。


少しだけ
彼女に触れる手に力を込めて、



鮮やかな色の中へ踏み込んだ。





→あとがき
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