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□mirage
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目の前の彼は、
私に笑いかける。

他人には、滅多に見せる事のない顔。

私にとっては、
どんな薬よりもよく効く特効薬になる。


まるで、蜃気楼みたいに

私の前で揺れる黒い髪が、少なからず私の生きる糧になっていようとは、


多分彼は知らない。



「どうした、ぼーっとして」

「別に?そんな事ないわよ」

「そうか…?
俺には“心ここにあらず”って感じに見えるぞ」


本当の事を言ったら―――

“見惚れていた”なんて
そんな事を言ったら、

彼は
驚くだろうか。





手を、繋げたら―――


そう思うのは
我侭かな。

彼が私に微笑んでくれるだけでも
もったいないと思うのに。

それ以上の物を望む私は
贅沢だろうか。


もし

彼が、幻ではないのなら


ずっと

私を包んでいてくれたら


私の想いが叶う時が、


いつか

来るだろうか。




視線を感じて顔を上げると、

彼が私を見ている。

顔が熱い。


わざと
視線を合わせないように目を泳がせる。


「大丈夫か?」

「な、何が?」

「あまり静かだと…心配になる」




私の想いが届くのは
きっとまだ先の話。


でも今は、

それでもいい。


ずっと
そばにいてくれるなら。





→あとがき
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