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□なびく黒、揺れる茶色
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「大丈夫?」

「はい、擦っただけだから…大したことないわ」


最近ではあまり珍しくなくなった前線での任務。
恐らく、班に二人の上忍と打撃力の強さという要素が重要視されているからだろう。

今は別行動であるガイからの合図を待つまでの間、三人で周辺の偵察を行っていたところ。
この班だからできることでもある。


「いや、用心に越したことはない。里に戻ったらまず医療班に見てもらうんだ。
それから…さっきから言ってるだろ?僕は木ノ葉の忍だって。
そんなに殺気出して警戒しなくても大丈夫だよ」

「…この状況下で…班員以外の人間が現れた時点で警戒するなという方が無理な話だ」


目の前で背を向けてしゃがみこんでいた男はテンテンの足に包帯を巻き終えると、ゆっくりと立ち上がって振り返った。
テンテンが怪我をしているのを見つけたということで、ここまで彼女を運んできたということだった。


「この班の隊長は君?」

「いえ…「外部の者に教える必要はない」


口を開こうとしたリーを右手で止めて、男の額当てを見る。
確かに木ノ葉の忍ではあるが、それだけの証拠で安心するにはまだ早い。


「あぁ…そうだね、よくできてる。
さっきから考えてたんだけど、もしかして君達…」


「ガイさんの部下?」


相手はさっきからじっと自分の眼を見てくる。相手の瞳が暗く鈍い光を放った。
眼を見る限りあまりいい印象は感じられない。
その理由は分からないが、声や態度、自分を見下ろす黒い瞳―――

全てが気に入らない。


「どうして分かったんですか?」

「リー!」

「あ…す、すみません…」


何がいけない

コイツがここにいるからだろうか。

いや、今までにも他の班から任務中に応援を呼んだことは何度もあった。


それでは何が―――


「君達の噂はかねがね聞いているよ。
ガイさんにそっくりな部下がいるっていうのも聞いていたし」


そう言って黒い瞳はリーに笑いかけた。


「それに…君、」


リーから自分へと視線を移して身体の位置を少しだけずらした。
また、冷たく光った。


「日向だろ?」

「……それが何か、」

「覚えてないかな、昔一緒に任務したの。
…君が中忍の時、僕が隊長だったことがあったんだけど」

「悪いが…いちいちその場限りの班員の顔や名前を覚えている程俺も暇じゃない」

「ちょっとネジ…!」


男の背後から声が聞こえた。
彼女の口から久しぶりに聞いた自分の名前。
まるで自分のことではないような感覚。


「お前もだ…テンテン」

頭では分かっている。自分が今何を言ってどんな眼をしているのか。
けれど頭では分かっていても、表に出るものは違う。

悪い癖だ。



「東の川より先は行動範囲外だと言ったはずだ。
前線での単独行動がどれだけ危険か分からなかったのか?」


男の話によれば、
テンテンがいたのは自分達の持ち場とは別の場所。
勝手な行動は命取りになる。それは分かっていると思っていたのだが、


「……ごめん」


ザワザワと風が鳴る。
黒い空に黒い風が吹き抜ける。
寂寞の空の色に染まった自分が見えた。


目の前の男の眼は

自分のそれとよく似ていた。





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