Get

□三人のオレンジ
1ページ/3ページ




2月14日、バレンタインデー。二限目始まって30分。自習になった授業を、勉強したり仮眠したりお喋りしたりと生徒達はそれぞれの時間を過ごしている。そんな中の僕とテンテン。席は前後。



「この意味に気付くと思う?」


テンテンは僕に問い掛けた。その手には綺麗に包装された箱。今日はバレンタインだから中身はチョコ以外の何物でもない。しかし彼女とは長い付き合いだが、バレンタインにこれほど凝ったチョコを持っている彼女は見た事が無い。なぜなら僕は毎年お馴染みの義理チョコを既に彼女から貰ったからである。


「僕には何とも…」
「そう、よね」


僕を始め、友達、先生など彼女は沢山の義理チョコを配る。しかしたった一つ、彼女がいま手にしているチョコだけは別。つまり、本命。



「気付くかな…」


そう、本命は今年が初めて。去年とは込めた気持ちが違うのだろう。そのことに彼が、ネジが気付くかどうか。テンテンが気にしているのはそれだった。



「ネジって恋愛とかには鈍いし、私がこんなチョコ渡したらどんな反応するか全然想像つかないし」


今まで義理チョコをあげていただけに、今更こんな丁寧なチョコをどう渡せばいいのだろうかと彼女は悩んでいる。じっとテンテンが見つめるのは僕の隣の席。僕らとは選択している授業が違うため、今は居ないネジの席。ざわつく教室の中で酷くゆっくりと時間は過ぎていく。



「リー」
「、はい」


「これ義理のつもりでネジに渡すからさ、あんたも同じ物貰った事にしといて」


それだけ言って彼女は前を向いてしまった。僕は彼女の背中と彼の席を交互に見やり、どうしたものかと思案してみるが良い案は浮かばない。僕自身が恋愛に達者ではないうえに、実は僕は知っているからだ。


去年のバレンタインデーからのこの一年間で、自分の気持ちに気付いたのはテンテンだけではない事に。






.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ