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□background
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みんな振り返る
彼は気付いていない
そして私は取り残される
【background】
賑わう街。予定されてる宿まで彼と二人で徒歩。他二人は何か暑苦しい事を叫びながら先に行った。人の行き交う道(たぶん商店街か何か)、私は早足で彼の背中を追う。普段から歩くペースは速いし、人混みが嫌いだと聞いたことがあるから早く抜け出したいのも分かるけど、少しくらい私の事も考えてくれないだろうか。
「(速い、)」
揺れる黒髪を追う。
そしてふと目に止まる光景がある。またか、とこぼしたくもなる。すれ違う人々が見ているのだ、彼の事を。特に多いのはやはり女性。一瞬彼に目を留めて視線で追いながらすれ違う。振り返る人もいる。一目惚れという程でもないだろうけど、彼の容姿が人並み外れている事は視線を惹きつけてしまう十分な原因だ。
「……」
そんな人々は彼にとっては嫌いな人混み、ただそれだけだろう。見向きもせずに先へ進むのだから。
「(私、は…?)」
彼は人混みが嫌い。早く抜け出したい、そう思ってるんだろう。だから先へ先へと進んで、一度も振り返らない。
そうだ、彼は一度も、
「(私、)」
彼は一度も、私を、見ない。
「(これは、きつい、なぁ…)」
私はあなたが嫌いな人混みの一部でしかないんだね。
イタい苦笑いしか出来なかった。爪先が小石を弾く。ゆっくりゆっくりと歩むペースが落ち、最後には立ち止まる。彼の背中はもう見失った。地図は確認してるから、一人でも行ける。遅いと怒られたって、すごい人混みだったじゃないとかあんたが速すぎるのよとか言ってやる。笑って、言ってやるんだ。
「……」
渦の中に一人
彼はもう見えない
(置いて行かれたの?)
(それとも先に行かせたの?)
(ねぇ私、)
(どうして泣きそうなの?)
「…そんなの、私が聞きたい」
私は本音すら吐き出せない
彼の背中はもう見えない
fin
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