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□パズル
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「ネジはヒナタが結婚することになったらやっぱ嬉しいもんなのか?」
「……何を言い出すんだいきなり」
明日の朝食は納豆と白米がいいという会話から、どうしてそんな話題に転がるのか。
荷物の整理をしていた手が一瞬止まったが、とりあえず同室の後輩の話に耳を傾ける。
「いや、そういや今日テンテンとそんな話して、『ネジのことだから挨拶に来た相手に柔拳食らわすんじゃねーか』って盛り上がったんだってばよ」
「で?」
「俺は、柔拳食らわすのは堅っ苦しいしきたりとか礼儀の話して耐えられなかったらじゃねーかなーと思ったんだってば。そしたらテンテンが『甘いわね』って」
「……」
「『ネジが柔拳で済ませることができる相手ならまだいい。相応しくない相手には正座させて痺れに苦しむ顔を見ながらジワジワと皮肉の言葉を浴びせるのよ!!』……っテェェ」
「お前の意見も相当だろ」
「そのリュック何入ってんだってばよっ」
「ガイ先生に貰ったダンベル」
「マジかよ!」
嘘だ。
リュックの中には今回の任務で必要だった参考書が2冊程。リーがいれば修行だ何だと理由を付けて持たせるのだが、明日はナルトに持たせよう。
「俺の柔拳の後にヒアシ様がいるのを忘れてるな」
「へ?」
「当主の柔拳を食らって生きていられれば日向家も安泰という訳だ」
「命懸けかよ……」
テンテンもテンテンで変なことを吹き込まないでもらいたい。
ただでさえ大きくなった話がナルトと掛け合わされば10にも20にも膨れ上がるのは目に見えている。
一体昼の任務の間にいつこんな話で盛り上がっていたのか教えてもらいたいところだ。
「じゃあさじゃあさ、テンテンが結婚することになったらどーすんだ?」
「やっぱ柔拳か?」と座敷の机の上に置かれた煎餅を音を立てて食べている。
これから夕食だというのに少しくらい我慢ができないのだろうか。
「オレだったら、サクラちゃんが好きになったやつならオレも友達になれると思うし、ラーメン食いに行ったりしてえなって」
いつの間にか準備を進めていた手が止まっていたことに気付いた。
こいつが変わったのはおそらく、サスケ奪還の任務に行ってからだ。
「考えたこともない」
好きだ好きだと思っても、それが伝わるかは分からない。
伝わった想いが、好きとは違う感情だったら。同じパズルのピースでも、無理にはめ込めば重なり合った部分は歪んでしまう。
「テンテンの問題にどうして俺が出てくる」
「だって同じ班だろ?」
「同じ班でも他人だろ」
何から何まで把握しているわけではない。
同じ班でも家族ではない。
家族でも、知らないことは山ほどあった。
「……でも」
「でも?」
それでも、家族がいたら。兄弟がいたら。リーやテンテンといるとなんとなく風通しの悪さが心地よいと感じる時がある。
「おめでとう、くらいは」
想像したこともない。
ずっとひとりで生きていく約束をしたから。
ひとりになった時に、ひとりの自分と。
「じゃ、柔拳は?」
「相手がとんでもないクソ野郎だった場合限定でだ」
「その前にテンテンに蜂の巣にされてっかも」
「あり得るな。俺の出る幕じゃない」
「誰が、蜂の巣だって?」
ナルトの顔色が一瞬で変わった。
その後ろには襖を半分開けて廊下の壁に寄り掛かるテンテンがいた。
「ど、どこから……?」
「『私の彼氏がクソ野郎だったら』ってとこから」
「そ、それは誤解だってば、」
「まずアンタを蜂の巣にしてやるわよナルト!」
「ひいぃ」
そろそろ夕食の時間だ。
テンテンは腹が減ると段々と機嫌が悪くなる。ナルトには『デザートを分ければ許してもらえるかもしれない』という旨を小さく耳打ちしておいた。
→あとがき