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□なかなおり
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「そういえば2人はケンカとかしないわけ?」
そう切り出したのはいのだった。
「「ケンカ?」」
合同任務と銘打ったアカデミー卒業試験の監督の手伝いだった。
中忍になって間もない忍は誰しも駆り出される行事のため、上からは「上忍への登竜門」と言われているらしい。
「ケンカとかしねーよ」
「あ、この前のは?ヒナタがとっといたシナモンロール、キバが食べちゃったって言ってたやつ」
「あれは、私が出しっぱなしにしてたのが悪かったから、」
「えー!キバあのシナモンロール僕がヒナタにあげたんだよ!」
「わ、悪かったって」
「ううん、いいの。私の方こそ」
「天使ね」
「菩薩だな」
「男子はああいう子がいいんでしょ?」
「何やっても笑って許してくれるような?」
「そうそう」
「いのやサクラがそんなことになったら逆に怖い」
「はあ!?」
「何よシカマル!」
「おっと」
両隣からのいのとサクラの怒号に、シカマルはさっとメニューを開いた。
「「じゃあこれで」」
何故か店内までもが静かになってしまった。
テーブルの端と端に座っていた2人は同時に席を立った。
「2人共、もう帰るんですか?」
「まだ料理全部来てないですよ?」
「明日の準備がある」
「テンテンもか?」
「うん、私も明日早いから」
「なあなあゲジマユ!」
自分の斜め前に座る少年は周りの目も気にせずテーブルの上に身を乗り出して話し掛けてきた。
「ネジとテンテンってば、2人で帰るとかこの後何かあんのか?」
「付き合ってるとか」
「サイ、お前何か知ってんの?」
「男女が連れ立って歩くなんて」
サイの言葉にテーブルがわっと沸いた。
そろそろ話のネタが尽きてきたのか、皆が自分の次の言葉に注目しているのが分かる。
「2人は今ケンカ中ですよ」
店の外は中と比べると随分と寒い。いきなり冷蔵庫の中に放り込まれたような気分だった。
「ねえ、いつまでそうしてるのよ」
思わず深い溜息が出た。そのことを言われたのか、それともまともに顔を見ないことを言っているのか、思い当たる節が多過ぎて返す言葉がない。
「いい加減機嫌直しなさいよ」
そう言う彼女の口調はどんどん鋭くなる。
「仕方ないだろ。お前が一方的すぎる」
「私が一方的?アンタが何も言わないからこうするしかないんじゃない!」
「少し頭を冷やせ」
確か一昨日もそう言って別れた。
悪いことが続いた。一緒に任務をしていた仲間が失敗して隊長だった自分が責任を問われた。書類のノルマが終わらない。昼からの任務に寝坊して遅刻。そのくせ風邪が治らずもう2週間ぐずぐずと経つ。
「頭冷やすのはそっちでしょ!?」
一昨日は「うるさい」と言って振り切ったが、今日はその一言を言う気力も沸いてこなかった。
打ち上げで盛り上がる周りの空気を壊しては申し訳ないと思って出てきたのに、それも許されないのか。
元々自分は上忍で別の任務に出ていたのに、たまたまナルトとキバの集団に会ってしまったばっかりに参加することになったのだ。途中で抜けてとやかく言われる筋合いはないはずだ。
「リーが心配してたから。修行に付き合ってくれないって」
「俺も暇じゃない」
「でも顔も合わせてくれないじゃない」
行き過ぎたお節介が迷惑になり得ることを彼女は気が付いていないようだった。
余計なことまで考えてくれなくていい。他人にエネルギーを使うより、自分のことを考えればいいのに。
うるさい。
何と言ったら、彼女はこの先自分に構わなくなるだろう。幻滅してくれたら、お互い楽なのに。
「ネジ、次の休みは?」
10メートル程先で、外灯に照らされる緑が目に入った。
自分達を追ってきたようだが、特に急いでいるようではない。全て分かったような顔をしてこちらを見ていた。
そういえばこいつは先程の食事の席でもどこか他人行儀だった。いや、自分がそうだったのかもしれない。
「リー、」
「君の機嫌が悪くなるタイミングくらい、分からない僕達じゃないですよ」
「……」
「ナルト君達にラーメン奢るの、ネジにも手伝ってもらいますからね」
2対1は分が悪い。
「あ、また溜息」
「……」
「テンテン甘栗食べますか?」
「え、いいの?」
「さっきそこで配ってましたよ」
「ウソ!全然気付かなかった」
「ネジも」
いらない。と言う前に思い切り手を引かれた。
「甘栗一袋ください!あと肉まん3つ!」
次の休みは確か3日後だった気がする。
きっと朝から2人がうるさく押し掛けてくるのだろう。それを思うとまた小さく白い溜息がもれた。
→あとがき