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□幸福の種
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ネジもリーも心配性だ。
それが私の悩みの種のひとつであることに、彼らは気付いていない。
「テンテン、大丈夫ですか?」
彼らはいつも大袈裟なのだ。
大した怪我ではない。私が心配しても彼らは気にもしないのに、私にはもう少し労わるべきだと言ってくる。
「里までまだ遠い。今夜はここで休もう」
少しの揺れでも頭がぐらぐらした。
敵の武器に仕込まれた毒が原因だった。私としたことが、毒を上手く抜くことができなかった。傷は重くないのに、熱だけが上がって立つことができない。
足元が覚束ない。最初は大丈夫だと言っていたが、次第に口数が減った私の変化に気付いたのだろう。任務を中断することはできなかったので、3人でやらなければならないところを2人で済ませて早めに切り上げたのだ。申し訳なさで涙が出そうだった。
自分の不手際を謝ろうにも、ここまでおぶってくれたことを感謝しようにも、舌が回らない。大人しく寝ていることしか出来ない自分に心底腹が立った。
心配してもらうほど重症ではない。ただ熱が出て動けなくて話ができないだけなのだ。
彼らはいつも大袈裟なのだ。心配なんて無用なのだ。死ぬわけではないのだから。
「そんなこと言われても、心配なものは心配なんです」
「だから大袈裟なの」
「テンテンが無口になると、何かあったんじゃないかと思ってしまうんですよ」
「それどういう意味よ」
「ネジが言ってたんです」
空がよく見えたのを覚えている。
目を開けているのも疲れるので横になってすぐに眠ってしまったが、視界の端に見えた薪の炎と照らされた頭上の木の葉が溶け合って綺麗だった。
「訊いとけばよかった」
アンタ達の方が私に何十倍も心配かけてるのよ。―――
そう言おうとしてやめた。
心配して、心配されて、心配を掛け合うのだ。大切だから、心配で心配で仕方がない。心配したくてもできなくなるよりかは、幸せなのかもしれない。
「僕は心配ご無用ですよ」
「よく言うわ」
きっとここにいる限り心配の種は尽きないのだろう。
ここにいる限り、私は幸福でいられるのだ。
→あとがき