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□カーテンコール
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「こんなのはどうでしょうか!」


そう言って黒板に広げた計画書と自分達の顔を交互に見ながら、リーは更に声高らかに言った。


「ラブロマンスです!」



概要はこうだ。
文化祭の出し物として劇をやることになったため、いくつかの案から絞っていこうということでホームルームの時間を使って話し合いを進めていたのだ。

今まで出たのは、既出の台本を使うこと。運良くクラスに演劇部員がいるということで、そういうツテがあるからということだった。

もう一つは、舞台ではなく映画として残すのはどうかという案。
高校生活最後の思い出に、ちょっと格好良いことをしたいという理由からだそうだ。
これも運のいいことに、カメラから編集機材まで持ち合わせているツワモノがいるということで候補に上がっている。

そして最後がリーの案だった。


「これなら、台本から上映まで全て自分達の手でやるので、一生忘れられない思い出になりますよ!しかもラブロマンスです!!」
「要は今までの意見を一番大変なルートにまとめた形だろ」


横からネジの冷静なツッコミが入る。
文化祭実行委員のリーはいつになく気合いが入っているのか、話し合いが始まって既に3本もチョークを折っていた。


「ラブロマンスとは青春だなあ」


ガイ先生は後ろのリーの席に座って「俺もチョイで出してくれ」なんて、まるで他人事のように笑っていた。


「勿論!主役はガイ先生ですよ!」


一瞬教室が静まり返った。
そして一斉にリーを見上げたクラスの目は、一斉にガイ先生の方向を向いた。
当の先生は他人事の顔からゆっくりと眉間に皺を作って、何故かネジを見た。


「俺に振られても困ります先生」
「我らが2年3組のトップですから!」
「だったらお前と先生だけでやれ」
「何を言いますかネジ!ネジにもちゃんと役がありますから安心してください」
「オイオイ、俺が出るのは決定なのか?リーよ」


私としてはこの3人でコントでもやった方が断然面白いと思うのだが。
コンビ名は「木ノ葉クロカミーズ」なんてどうだろう。


「あ、テンテン何笑ってるんですか!」
「何でもないでーす」


クラスは「ガイ先生も出演する」というポイントで異様に盛り上がり、結局「台本から撮影、上映まで自分達で行う映画作成」ということでまとまった。


「ここまで進んでなんだけど、台本は何やるの?これだけ張り切ってるってことはいくつか候補はあるんでしょ?」
「よくぞ聞いてくれましたテンテン!!」


リーの言う「ラブロマンス」がどんなものなのか気になっていた。
正直どろどろに甘い脚本なら、私はチラシ配りくらいに留まるつもりだ。


「『ロミオとジュリエット』です!」
「え、それはあの?有名な?」
「そうです!」
「ガイ先生主役で?」
「そうです!!」


私の質問はどうやらとても重要なものだったようで、クラスの女子の空気が一気に凍り付いた。

ガイ先生が主役となると、つまりロミオはガイ先生になるわけだ。


「ネジ君がロミオじゃないの?」


教室の一角からの黄色い意見。少し予想はしていたが、果たしてリーは何と答えるのか。
また一斉に視線がリーに向く。最早教室がリーの空気になっている。案外こういう才能はあるのかもしれない。と、自分もリーを見ながら思った。


「何でネジが?ネジはジュリエットでしょう」
「は!?」


このクラスの文化祭実行委員はリーだが、ネジは学級委員として黒板の脇で提出用の書類を持って、まるでオリンピックの選考委員のような空気を放って椅子に座っていた。
それが、リーはキョトンとして、ネジはまるでお笑い芸人のようにガタンと椅子を倒して立ち上がった。


「これなら絶対大ウケ間違いなしですよ!」
「お前、」
「これは文化祭実行委員権限ですよ。君もよく使うでしょう」
「……!」


これはやはり別枠でお笑いコンテストも作るべきだ。
そう思って、私は議事録の隅に書いた「木ノ葉クロカミーズ」の文字をぐるぐると丸で囲った。





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