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□breath
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「ヒナタ……!」


店を出てすぐの路地。
彼女の姿がないことに気が付いてあちこち探していた。
様子がおかしかったから。
また家で何かあったのかとか、誰かに何か言われたのかとか、ネジとのことなのか、とか。

柄にもなく
いろいろ考えてしまって。


「お酒飲んだら、ちょっと気分悪くなっちゃって」


嘘つけ。
お前全然飲めねぇクセに。

彼女の席のグラスが引っ繰り返されたままなのを俺は確認済みだった。


「帰るか?」
「……」
「荷物取ってきてやる「待って……!」


手首を掴まれて、薄暗い中に彼女の目を見た。
彼女を見つけたことに安堵して、俺は彼女を


「………」


見てなんていなかった。


「どうしたんだよ」



路地に差し込む月光は、長い長い影を作った。
彼女も、彼女の影も、俺の影に飲み込まれてしまって形が見えない。


「……ひとりに、なりたくて」


暗に“家には帰りたくない”と言っているように感じ取れた。
深くは聞かない。昔からそうしてきたから。
けれど原因が分からない上に彼女が座り込んでしまったから、余計に心配になってしまう。
こんな性格だったか?俺。


「俺は、いない方がいいか?」
「そ、そんな……!」


さっきよりも小さくなって膝を抱いて座る姿はまるで小さな子供のようだ。



俺は、いたいよ

お前の隣に



「いて……くれる?」
「しゃーねぇ」
「……ありがとう」
「いいって、別に」


だから、そんな顔するなよ。
俺まで泣きたくなっちまうだろーが。


「たまにはいいんじゃねーか?」
「……?」
「帰らなくても」


少しぐらい反抗したって罰は当たらないだろ。
全てを紛らわす為に、彼女の頭を思いっきり撫でてやった。





→あとがき
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