まどか

□初恋
1ページ/28ページ

希望の女子高に入学し、漸く新しい生活に慣れた初夏。
クラスの友達とのカラオケが終わり、一人帰宅途中に激しい雨で足止めされたまどかは、乗り換え駅の構内で困り果てていた。
全身びしょ濡れだし、台風で電車は止まっちゃうし…天気予報なんて全然当たらないじゃない!
「あれ?まどかちゃん?まどかちゃんでしょ?」
突然の声に驚いて顔を上げると、長身の青年が人懐っこい笑みでまどかの顔を覗き込んでいた。
「…創お兄ちゃん?」
久しく会っていないが、十年くらい前までよく遊んでいた従兄の面影が、その青年に重なって見えた。
「そう、創。久し振りだなぁ…まどかちゃんてばすっかり綺麗になっちゃって。見違えてナンパしようとしちゃったよ」
爽やかに笑う創に、まどかは赤面しながら
「創お兄ちゃんこそすっごく大人っぽくなって全然分かんなかったよ」
と頭と両手を振りながら答えた。
「台風で電車止まってるんでしょ?俺んちこっから近いから雨宿りしてく?家に連絡してさ」
二人は入れる傘を目の前でぶら下げられ、創のありがたい申し出をまどかは素直に受けることにした。
懐かしい出会いに感謝し、これから待ち受けていることなど分からずに。
創のマンションは駅から徒歩五分ほどだが、途中コンビニに寄ったので到着するまで十五分ほどかかった。
夕食で呑む酒類を買ったようだ。
「ただいまー。珍しいお客さん連れて来たよ」
創の声に反応し、先ず奥から駆けて来たのは三男の充だった。
「え…まどかちゃん?すげぇ!チョー可愛くなってね?ラッキー♪」
美少女と見紛う外見に反し、ノリの軽さが相変わらずで、まどかは込み上げる笑いを堪えながら
「充お兄ちゃん、お久し振り」
と挨拶した。
最後に部屋から顔だけ出したのは次男の央だった。
「…よぉ」
それだけ言うと扉を閉めてしまった。
無愛想なのは変わっていないようだ。
「まどかちゃん、はいコレ」
いつの間にか奥へ行っていた創に手渡されたのは、バスタオルと叔母さんのものらしき着替えだった。
「そのままじゃ風邪引いちゃうよ」
と創に風呂場へ促され、言われるままにシャワーを借りて着替えてしまった。
サイズはぴったりだけど…叔母さんの下着って…
レースとリボンのみで本来の役割を果たしていない下着に赤面するも、選択肢がないので身につけるまどかだった。
このワンピで透けないかなぁ?
てゆうか叔母さんの趣味、若っ!
「シャワーお借りしました…」
下着の心許ない着心地と、親戚とは言え久しく交流のない家に単身でいることが、まどかをかなり緊張させていた。
そんなまどかの心情を察してか、にこやかに創が食卓へと招いてくれた。
まどかがシャワーを浴びている間に、三兄弟は既に食卓についていた。
「それじゃ、まどかちゃんとの再会に乾杯!」
創の声に四人でグラスを合わせ、夕食が始まった。
まどかはグラスに口をつけてハッとした。
「創お兄ちゃん…これお酒?」
隣に座っている創が笑顔で
「大丈夫!殆ど酒なんて入ってないから、ジュース代わりだよ」
と答えた。
確かに甘くてお酒って感じがあんまりしないかな?
口当たりの良さについ、創に勧められるままにまどかはグラスを重ねた。
食事は主に充が賑やかに昔話で食卓を盛り上げた。
食前の緊張が嘘のように、まどかは従兄たちと打ち解けていた。
ご飯を食べながらの会話と、ジュース代わりのお酒のおかげかな?
リラックスしたまどかは、そのままリビングに場所を変え、従兄たちと談笑を楽しんだ。
「まどかちゃん可愛いから彼氏いんの?」
突然、充がまどかに訊く。
「えぇっ?女子高だからいないし!!」
実は人気の高い女子高なので、その気になれば彼氏は選り取り見取りだが、内気なまどかは全く考えもしなかったのだ。
「従兄としてそれは放っとけないなぁ…」
まどかを挟み、充の反対側に座っていた創はそう言うと、まどかの肩を抱き寄せて耳元で囁いた。
「お兄さんたちが色々と教えてあげるよ」
今までと違う甘く危険な声色に、まどかは思わずビクンと首をすくめて固まってしまった。
「そうそう、こんな可愛いのに勿体無いって」
充もまどかに体を密着されるようにもたれかかって来た。
「…決まりだな」
向かいに座っていた央がトンと軽くまどかの肩を押して、まどかは床に仰向けの状態になった。
「え?お兄ちゃん…」
固まったまま、まどかは覗き込んでいる三人の従兄たちの顔を順番に窺った。
「彼氏一人じゃ満足出来なくなったらゴメンね?」
駅の構内で出会った時と同じ人懐っこい笑顔で、創がとんでもないことを言った。
「お兄ちゃん…何するの?」
予測不能の事態に、まどかは声を震わせて不安そうに訊く。
「だからナニだって」
笑いながら言う充の言葉が理解出来ないまどかの首筋に創の指が滑る。
「ぁん…」
突然の刺激に自然と声が漏れた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ