その他夢

□オロチ再
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ドゥオーラでの酒宴。
葡萄酒は溢れんばかりに出てくるし、料理も美味い。曹操は機嫌良く、年若い貴族の跡取り達もおおかた心を許しているようで、各々魏将の面々と話し込んでいる。
「…戦わなくとも生きていけるではないですか」
神威はははっと笑って杯を傾けた。魏が織田を攻めると聞いたからだ。
「お前、曹操に言うなよ」
「言いませんけど。織田攻めにはこちらは加わりませんよ」
「おまっ。同盟の意味をわかって言ってるんだよな」
「はい。兵士の数と経験はこちらの方がありませんから同盟は同盟です。でも、必要のないことは致しません」
「馬鹿者が」
セブルスがさっとやって来ていい放った。
「お前はものを考えなさすぎる。どうせ、ぱっと思い付きで良く考えもせずに同盟などとぬかしたのだろう」
「…本当に、良く分かるな」
感心したのは夏候惇だ。
「いや、まさか。ねぇ」
「こちらの良いようにばかりはできんと分からんのか」
「まあ、その時はその時かなと」
「ふん。カイとモンテールが苦労するわけだな」
「…返す言葉もございません…」
「だと思いましてね。今、曹操様と話してきましたよ」
スレイマンとエッツィオがやって来た。
「優秀な家臣がいて良かったな」
呆れて白い目で神威をじーっとみる夏候惇。
「……ええ、本当に…」
「何々、どうして神威はしょんぼりしてんだよ」
杯を片手に夏侯淵がやって来た。
「なあなあ、お前んとこ踊りの曲ってねぇの?」
「あ、ありますよ!」
ちょうどいいとばかりに神威は夏侯淵の背中を押して行ってしまった。
「変わらんな」
セブルスはやれやれと首を振って夏候惇に頭を下げると部屋をすっと出ていってしまった。あの男はこう言う場は苦手なのだな。
「聴いたことがありますか?夏候惇殿」
スレイマンが盛り上がっている和のなかでヴァイオリン片手に立つ神威を示した。
「いや。そもそも、出来るなんて知らなかった」
「神威様の楽器の腕は中々のものですよ」
エッツィオとスレイマンが夏候惇の杯に葡萄酒を注ぎながら言った。
「ほう」
そこに曹操がやって来て、神威の座っていた席に腰を落ち着けた。
「あやつにはフラれてしまったな」
「主が大変な失礼を」
「いや。…あれはそう言う女だ。無理強いはせん。なあ、夏候惇」
「ふんっ」
神威は和のなかでヴァイオリンをジプシー風にして弾いている。
それに手拍子が重なりわいわいと音楽が溢れ出す。
「エレーナ!ほら、皆仕事はいいから踊ってみせないと!」
それに笑いながらやって来た執事達。
「もう、今日は仕事は終わりだよ」
それに完成が上がると神威は跳び跳ねながらヴァイオリンを弾きならす。
「面白い音楽だな」
「あれは、ジプシーと呼ばれる民族の音楽ですね」
「上手いじゃねぇか神威!」
足裁きを教えると笑いながら楽進や李典達も踊り出した。
一通り弾くと側にいた若い男にヴァイオリンを預けて、和を離れる神威。
向かう先には細く開かれた扉から顔を覗かせる小さな子供が二人立っていた。
「あれは…」
「あれは、シューレとジューンですね。親を亡くした子を神威様がメイド見習いとして城で面倒をみているのですよ」
カイが書類の束を持ってやって来た。
二人は神威の首に腕を回し抱っこをせがんでいる。神威は二人の頭を撫で、笑顔で抱き上げて部屋を出ていった。
「…追わなくて良いのか」
ニヤッと笑う曹操。
「…お部屋は西の三階です」
スレイマンがそっと耳打ちする。
「ふんっ…」
立ち上がる夏候惇。
「どこに行くんだ夏候惇よ」
「厠だ!!」
うるさいとばかりに手を振って出て行った。
「素直じゃないのう」
クツクツわらう曹操は杯を回し、喉を潤した。

「ゆっくりおやすみ。明日は魏の城下に遊びに行こう。モリーに頼んでおくよ」
「はい。おやすみなさい神威様」
布団を首もとまで被せ、神威はそっと部屋を出た。
「…あんたの子かい?」
「っ!賈ク殿…。びっくりした」
あははと笑う賈ク。
「子供抱えてどこに行くのかと思ってね」
「ああ。あの二人は、親を亡くした子です。城のメイド見習いとして育てているのですよ」
「なぁんだ。そう言うことか…っ!」
突然、神威は賈クの言葉を遮った。回りを見渡し、それから視線を大きな月の浮かぶ外へと向けた。すみませんと断り、神威はさっと彼を引き寄せローブに隠した。
「っ、おい。神威…」
「良くないものが、城に近付いて来てますね…」
神威は賈クを抱き締める腕に力を込めた。賈クは足元から冷えていく感覚を覚えていた。神経を撫でられるように冷たい。身体が小刻みに震えている。
「賈ク殿、大丈夫です。私の呼吸に合わせて息をしてください」
ローブの前をしめると、右腕を外にさらした。
『モーグリーの子よ 夜の女帝の声を聞き 冥府の子等へ』
月明かりの下、廊下の影が伸びると、一斉に窓をすり抜け外へと走った。
『私の子供達に 指一本触れることなきように』
神威がカッと目を見開くと、影は矢に姿を変え、何万と言う数が夜の彼方へ消えていった。
崩れ落ちる賈クを神威は支えた。意識はあるようで、大丈夫だと手をヒラヒラさせる。
「神威っ!」
廊下の向こうから夏候惇が何事かと走ってきた。
「賈ク!」
「夏候惇殿はどこも?」
「何がだ。影が外に這い出るようにしていくのは見たが、何も…」
「では、とりあえず賈ク殿を広間へ。暖かくさせないと」
神威が賈クを抱き上げ夏候惇と共に広間に血相を変えて戻ってきた。
「神威様、どうしたのです!」
「悪い。部屋に戻った使用人達が無事か見回ってほしい。いたら、広間へ連れて来て」
「一体何が…」
「モーグリーの子を外に放った」
神威は賈クを寝かせ頭と胸に手をあてながら答える。モーグリーの子を放つ。警告と追跡の為。それは不審な何かが城にやって来たという意味だ。
「一席は西、二席は南、三席は東
、四席は北。五席は我々と外を」
エッツィオとボイエールは方々に散っていき、使用人達と魏の将は広間に残された。暖炉の側に寝かされた賈クは大袈裟だよと力なく笑う。
「魔力は生身の人間が浴びて良いものではないんですよ。特に短生種は」
寒かったら言ってくださいと伝え、神威は広間に残った執事に賈クを任せると将達の側に座った。
「魔力が使える者。ここでそれは…」
「オロチ…って事になるねぇ」
滅びたはずだが。ぎいっと扉が開くとセブルスが薬草茶を持ってやって来た。
「…セブルス」
「我輩の結界を潜るとはな。地下は問題ない」
暖炉の側に座り、賈クの背中を支え起こした。物凄い匂いで飲むのを躊躇してしまう。
「そう。…参ったなぁ」
それを賈クに飲むようにセブルスは無言で促した。
「…お前も出来たはずだな。結界」
「わ、私のは毛色が違うからなぁ」
本当に嫌そうだ。夏候惇と典韋は相変わらずだなと呆れた。
「やってみれば良い」
「簡単じゃないんだよ」
「我輩のものも簡単ではない」
ぐうぬぬと唸っている様にも思えるが。言い返せない所を見ると、セブルスのが強いのか。
「…昔は泣き虫で可愛かったのに…いつのまにか憎たらしくなるんだから」
「お前は何百年経ってもかわらんな。悪い意味で…だが」
郭嘉も満寵も可笑しくて笑ってしまう。
「……あーもー!分かったよ。試してみるから」
神威が立ち上がったその時、バンッと扉が押し開かれた。
血相を変えて入ってきたのはモンテールと年若い執事だった。
「か、…神威様、シューレとジューンが居りません!」
「亜種の蛇の毒が寝台に。連れ拐われたものと…思われます」
神威の毛が逆立つ。怒りで目が真っ赤になっている。ぐるるると低い唸りが静まり返った広間に響く。
「オロチとやらが、お前に宣戦布告と言ったところか?」
神威はセブルスを見た。
「…モーグリーの移動位置は分かるかい、セブルス」
「…南南東。距離は百だな」
「分かった。…結界は張ろう。もう来ないとは思うが」
「一人で行く気か?」
曹操が問う。
「行かねば、また来るのでしょう。…多分狙いは私ですから」
気に入られたものだと神威は笑う。
「狙われる理由は」
「多分、永遠の命…」
それにセブルスがため息をついた。
「…いつから、気が付いていた」
「少し昔の本を読んだんだ。私は、死ねないのだろう?」
「お前が死にそうになれば、細胞は自力で修復を行う。お前の意思とは無関係に…だ」
やっぱりと神威は
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