その他夢

□現パロ 無双
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テストレーサーと会社役員

バルセロナテスト二日目。
「神威は何してるの?」
ルノーのパドックで、エンジニアと競うようにしてキッチンに立っている。
それを、テーブルからニヤニヤしながら他のエンジニア達が見つめていた。
今日はテスト走行の日で、神威が調整したマシンを乗り終えたアロンソとフィジケラは同じくニヤニヤ見ているヘイキに尋ねた。
「どっちが、カフェラテを美味しく入れられるかの勝負」
「また下らないことを始めたもんだ」
フィジケラは苦笑しながら手近の椅子に座った。
「勝負の判定はフィジコにつけてもらうんだって」
「本気?」
携帯をいじりながら笑う。
「でーきーたー!!!」
何やら神威が日本語でいい放つ。
「嘘だろ神威!それは反則だ!」
「反則じゃないよ、テクニックでしょー!フィジコー!!」
満面の笑みの神威はくるりと振り返るとフィジケラの前にカップを持って立った。
「ヘイキから聞いた?」
「聞いた聞いた」
「じゃあ、はい!お願いします」
慎重にカップを置いた神威。
そのカップを覗いた瞬間、フィジケラの目が開いた。
「…神威の勝ち」
「よーっし!!!」
「なにこれ!凄いよ神威ー」
ヘイキもアロンソもカップを覗き込む。そこには、見事なガンダムが描かれていた。携帯のカメラがそこかしこで鳴る。遅れてトムのカフェラテが来た。
「ズルいぞ神威!味の勝負だろ!!」
「…味は、神威はまあまあ。トムのが美味い」
「よっし!俺の勝ち!!」
「知ってる?試合にかって勝負に負けたっていう日本語がね、あるんだよ」
「おまっ!!っていうか、フィジコのマシン調整テストの続き行けよ!」
「あれ、休憩は?」
「もう終わりだよ神威」
フィジケラもアロンソもやれやれと笑っている。
「ほら、行くぞ神威。あと三十周」
神威のエンジニア達が背中を押す。
「フラビオの鬼」
「伝えておこうか?」
「やめて!!」
アロンソがクスクス笑った。
行ってらっしゃいとひらひら手を振る。
「本当に変なやつー」
トムのそれに、残りのエンジニア達は苦笑しながら頷いた。
「仕事をきっちりやるからな、良いんだよ神威はさ」
「そうそう。レースは向いてないんだけどね。よくあんなドライバー見つけたよなブリアトーレも!」
確かに。一番変で、訳が分からないのはフラビオかもしれない。


「お疲れ様でしたー私」
いつもの事だ。エンジニアはお疲れ様神威とクスクス笑い、頭を撫でながら帰っていく。人が少なくなったパドックで丸まる神威。
「あらまだいたの?そうだ、神威!明日のドレス決まった?」
「ドレス…ドレス?」
「やだっ!忘れてたの?明日のパーティー!!」
広報のエリーゼが起きなさいと叩いた。
「明日の船上パーティー!テストドライバーまで出るのよ!言わなかった?」
「言われたかもしれない」
「買いに行く時間ある?」
「えっと…多分、二時間位なら」
「絶対買ってきて!女性のテストドライバー久しぶりだからメディアも注目してるのよ!」
しかも日本人だしと付け足す。
「分かった。買っておく」
広報活動も大切な仕事だ。何せスポンサーがかかってる。
「頼んだわよ!ドレスさえ用意してくれたらあとはこっちでどうとでもするから」
「ありがとう!」


超豪華。フラビオの個人的な巨大クルーザーだ。バンドも入っているし、シェフもいる。
「ヘイキ、ネクタイ曲がってるよ」
「え、嘘」
「上向いて」
神威はそれを直してやる。
「ありがとう。慣れなくてさ」
「君達パーティーの国の生まれなのに?」
「なにそれ!」
また訳分からないこと言ってるとヘイキが笑っていると、アロンソとラクエルがやって来た。
「まあ、神威!?良いじゃない、似合ってる!」
「ありがとう。ラクエル嬢は相変わらずお美しい」
「あら、ありがとう!」
「皆さんお揃いで。…なんか大変そうだぞ」
やって来たフィジケラ。
「フィジコー!!やっぱり、イタリア人って着方が上手いね」
誉められて満更でもなさそうだ。
「で、どうしたの?」
いつまでたっても音楽が始まらない。今日はフラビオお気に入りの若手ジャズバンドの演奏のはずだ。
「ピアニストが船酔いだとさ」
「かわいそうに」
そこにつかつかやって来たのはフラビオだ。
「神威、お前弾けるか?」
「…えー。ジャズ苦手なんですけど」
「楽譜があれば弾けるんだろ?」
「まあ、少しなら。アドリブは絶対出来ないですけど」
「よし!おーい!代わりがここにいるぞー!うちのテストドライバーが」
わざわざ言うのは注目を集めてついでにスポンサーを得たいという商売魂からだ。
振り返り、悪戯っぽくウインクするフラビオ。
「上手くやってくれよ」
「…かしこまりました…」
酒を飲む前で良かった。楽譜をくださいとフラビオに言いながらバンドの方へ向かう。
「え、神威の趣味ピアノ?以外!」
「いや、神威ってエコールノルマル出身なんだ」
変だろと笑うのはアロンソだ。
「え!!」
「ヘイキは知らなかったか。…ま、そう考えると何となく分かるだろ。あいつがレーサーに向いてないのが」
「どういうこと?」
「神威は勝負師よりも職人ってことさ」
「ああ!」
「テストマイスターだよ神威は。ロンが欲しがってるの断ってる。ワケわかんないだろ。…メルセデスは飯が不味いんだと」
「うーわ。意味わかんない」
たったそれだけの理由で。
「ほらほら、始まるわよ!」
ラクエルのそれで三人はステージに注目する。
久々過ぎて必死だ。しかも、苦手のジャズだ。鬼のような形相で弾いている。
「ねぇ、あの顔、大丈夫?」
「あっ、目をつむって聞くと違和感無いわよ!!」
楽しい音楽には似つかわしくない顔で弾いているが、それさえ見なければ普通に聞けた。

「タイヤはねダウンの時の粘着がきつい気がするよ。あと、左のコーナリングの時反応が若干ぎこちないかな。突っかかる感じがする。もう少しスムーズにした方がフィジコも攻めやすいはずだよ」
「分かった。…よし!神威、休憩だ。午後からまたよろしく」
「はい」
レーシングスーツを腰に引っ掻け、頭にはタオルを巻いている。日本は湿度が高い。神威はチームのパドックまで水を飲みつつ歩いていた。
「お疲れ神威」
「ヤルノ!!ありがとう」
バイバイと笑顔で手を振るヤルノ。チームの母国凱旋だ。力が入るだろう。
それと代わって広報のエリーゼがやって来た。
「神威、お客さんよ。昨日行ってたテレビの」
「ああ!初めまして。こんな格好ですみません」
カメラマン一人タレント一人と通訳だ。最小人数しか入れないし、カメラは確か手持ちの小型しか認められていない。もっとも、それは大金を払ったフジテレビなら別だが。
「フジヤマテレビです」
そう笑みを浮かべて言った男に見覚えがあった。
「あ!凄い!和牛の川西さん!」
「えー!知ってます?」
「知ってます知ってます!」
漫才面白いですよね、と言って盛り上がりそうなところで。
「神威ー!!」
来た方向から追いかけて来る声がした。
「え?」
「すまない!もう一度乗ってくれー!」
「ええ!!あー、あのちょっと、待っててもらえますか?エリーゼ、マシンテストの追加入ったからこっちお願い!ごめんなさい。インタビュー最悪キャンセルで」
「!!」
その時の川西の顔は忘れない。えーっ!!と目を真ん丸にしていたのだから。
「善処しますから!…リオ!何周分のデータ欲しいの?」
「五十以上!」
「…今日まだ時間ありますか?さすがにマシンテストは無理だと思いますが、三時間以内に戻れるかと」
「僕らは皇さんの取材なので大丈夫です」
「そうですか。あの、コースを川西さんをのせて走る企画は今日できると思います。すみませんが、よろしくお願い致します」
エンジニアと共に去る神威は、いきなりクルッと振り返った。
「ルノーのご飯美味しいですからぜひ食べてってくださいねー!!」
その声は大きいので回りにいた日本人関係者は爆笑していた。
変わり者の神威は聞いた通りかと納得した。
神威の評判はテレビクルーにはとても良い。礼儀正しく気取らずに丁寧に接するからだ。
そして、ここは日本。
そのフジヤマテレビのスポーツ番組を眺めていた李典と楽進は、あああー!!!っと大声をあげた。
「うるっさいぞ!!」
日曜の昼。休日出勤だからと昼食はテレビをつけてその前のソファーでだらだらとコンビニ飯を食べていた。
「か、かっ、夏侯惇殿!!」
節電のためこちらに来ていた夏侯惇。テレビを指差しあわあわいっている二人を見てため息をつき、重い腰を上げると、なんなんだと面倒くさそうに立ち上りテレビを見やる。
「か、神威…」
そこには、レーシングスーツを来て、どこぞのレポーター芸人とヘラヘラと手を振っている神威がいた。
「な、な、何してるんだこいつは!」
「いやっ、え?楽進これって」
お待ちくださいと、ぽちぽちと携帯を弄っていた楽進はあったと記事を見つけた。
「皇神威。東京都出身。F1マシンテストドライバー。ルノー専属のマシン開発ドライバーからテストドライバーとしてこれまでチームの優勝に貢献する。開発チームからマイスターと呼ばれ、その安定した走りとマシンコントロール技術は評価が高い。生涯レースはしないとあるインタビューで答えており、これはレーサーとして結果の奮わなかった自身を拾ってくれたブリアトーレに恩義を尽くしたいからだと話している…」
「神威だな」
「神威ですね…」
F1日本GPが来週末行われる。
続々と日本入りするレーサー達を映し、テストドライブの映像を流していた。そこに真面目な顔をしてマシンを降り、エンジニアと話す神威が映る。
唖然としながら眺めているとCMが流れ始めた。
『皇神威です。職業はF1マシンのテストドライバーです「なにこれ、恥ずかしい」』
ルノーの新車のCMだ。
レーシングスーツを着た神威が笑みを浮かべてカメラの前で話始めた。
『ルノーのメガーヌはファミリータイプですが、スポーツタイプの様な大胆な走りを再現できます。それも、より安全に』
とんっと車体を叩いた。
『ボディーは丸みがあって可愛らしいですね。柔らかい印象を与えますが、走ると凄い奴です』
車に乗り込み、窓から顔を出す。
『コーナリングはスムーズです。ストレートは気持ちが良いですよ。ただし、スピードは法定速度でお願いしますね』
『では、良いドライブを。チャオ!』
そう言って颯爽と車で走り去る。
「チャオ……何だこれ!!」
李典はずぞぞぞとラーメンを思いきり啜った。いい人生送ってるじゃねぇか。
「おや、見つけたのかい?」
いつの間に。郭嘉が体に悪いものしか食べないのだねと笑いながら後ろに立っていた。
「郭嘉殿。ご存じだったのですか?」
それにきっと夏侯惇は郭嘉に鋭い視線をやった。
「そうだよ、あれは神威だ。今は皇神威ね…。ちなみに、曹操様は今度神威のスポンサーになろうとしているよ。ね、神威」
「はい!有り難いことに。いやあ、助かります!」
ぶっ!!飲んでいたコーヒーを吹き出した。
「神威!」
「あはは、お元気でしたか?いやあ、転生ってあるものなんですね!郭嘉殿から聞いたときは、夢かと思いましたよ……あれ?どうしたんです?」
「お前、テレビ…」
「それは、昨日と一昨日のです」
「…小さくなりましたね…」
「あ!楽進殿と同じくらいですかね」
立ち上り背比べをする二人。すっと立ち上がった夏侯惇には気がついていない。あ、と楽進が思った時には、夏侯惇は後ろから神威を抱き締めていた。昔と違い、すっぽり収まる。
「…来ていたなら、早く言え…」
「どこにいるか分かっていたら、最初に逢いに行ってたんですけどね」
面目ないと笑う。
「で、郭嘉殿はいつからご存じで?」
いちゃつく役員は放っておいて、李典が問うと郭嘉はふふふっと楽しそうに笑った。
「半年前かな。神威と連絡をとってね。それで、夏侯惇殿には秘密にしようって殿が」
「半年だと…」
夏侯惇は腕の中の神威を見下ろした。
「何が、どこにいるか分かっていたら逢いに行ったのにだ。半年前から分かっていただろうが!」
「わ、私だって暇な訳じゃないですからね」
「電話やメールの一つも寄越す気にはならなかったのか!」
「ファクトリーに閉じ込められてマシン開発してたんですから、仕方ないでしょう」
「そもそも、秘書の俺に話を通さんか、郭嘉!」
「おや、私?荀ケ殿には伝えましたよ。というか、痴話喧嘩に巻き込まないでくれませんか?」
神威と夏侯惇の痴話喧嘩。陣屋でもしょっちゅう言いあいをしていたのが懐かしく思い出される。
「ま、まあまあ。で、神威は時間あるのか?」
「自分の仕事は終わらせたので木曜に鈴鹿に戻れば大丈夫です。あ!飲みに行きますか?焼き鳥」
「おっ!行くか!」
「神威はどこに泊まっているのですか?あ、チームが」
「テストドライバーに、良いホテルは無縁です。…そこまでチームはもってくれません。どっかビジネスホテルとか空いてたらそこに泊まります」
「だったら、夏侯惇殿のマンションで良いじゃないか。この人随分長いこと独り身だしね」


「私運転しましょうか?世界最高の運転免許証持ってますよ!」
スーパーライセンスをちらつかせてどや顔だ。










人事部 郭嘉
秘書件運転手夏侯惇
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