その他夢

□魔法の前に
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ホグワーツは美しく危うい魔法の城だ。
真夜中に蠢く影は時として迷い人を救い、迷い人を殺す。牙を剥くも頬擦りをされるも城の機嫌次第だ。
「まーた、お前達か!!」
びくりっと体を奮わせたのは、入学早々問題ばかりをおこしている二人組だった。カムイは頭を抱えたくなった。彼らを見つけたのは今週で三度目だったからだ。
「げっ!カムイ…」
「げっ!じゃないんだよ」
逃げようとする二人の首根っこを掴み、ぐいっと持ち上げる。
「おわっ!怪力化け物!」
二メートル近い身長。刺青が身体を覆い、フードは目深に被っている事が多いが、今はその端正な顔が二人を睨み付けていた。
「そうかそうか。じゃあ、このまま、お前達をマーピープルの湖に放り投げてやるよ」
「それだけは」
ジェームズがうううっと頭をおさえて目をつむる。
「…だったら、真夜中に出歩くな。馬鹿者が」
ひょいっと二人を自分の両肩にそれぞれ座らせてやる。
「寮まで連れてってやるから、ちょっと付き合えよ」
「…逃げないから、降ろせよ」
「足下見てみろ」
カムイの言葉に二人は下を見て、ひぃっと体を縮ませる。
「今日は良くない日なんだよ。私が見つけなかったらお前らこれに喰われて死んでたぞ」
それは闇に紛れて子供を連れ去る、霧犬と呼ばれる闇霧の一種だった。
「サブァーラ、家に帰るよ」
ぐるぐるとカムイの足下を回ると、サブァーラと呼ばれた霧犬はカムイの後ろにまとわりつく。
「カムイは大丈夫なの?」
「大丈夫じゃなかったら出歩いてないだろ」
サブァーラが怖いのかすっかり大人しくなった二人。
地下の部屋にサブァーラをおいた後、グリフィンドール寮まで二人を送った。
「おや、起きていたのかい、リーマス坊や」
扉を開けると、談話室のソファーに毛布にくるまって二人の帰りを待っていたリーマスがいた。
「カムイ…!二人共、今日は霧犬が出歩くから出ちゃだめだってリオンが言ってたじゃないか」
「そういう夜に出歩くから楽しいんだよ!」
「サブァーラ見て震えてたのはどこのどいつだ?」
ばつが悪そうな顔をする二人。カムイはクツクツ笑いながら二人の背中を押した。
「もう、今日は出歩くな。サブァーラだけで済めば良いんだが」
カムイは振り返り扉の外を見渡す。
「…何だよ、それ」
「いや。…じゃあな、お休み。あ、夜更かししないでさっさと寝ろよ!」
三人が頷くのを見届けてからカムイは扉を閉めた。
自由に動く階段。壁にかかった動く肖像画。いつもと同じだ。
「やあ、カムイ。また、いたずらっ子達の世話かい?」
肖像画の一つが話しかけてきた。
「ああ、起こしてしまったかい?そうだよ。今日はあんまり良くない日なのに…」
「そりゃ、いつもより大変だな。ま、もうすぐ夜中の峠を越えるから、それまで気を付けろよ」
「ありがとう。お休み」
カムイはフードを目深に被った。黒いローブを纏うと、手近の階段からまた城の内部へと向かっていった。

翌朝、結局朝まで見回りに暮れたカムイは大あくびをしながら食堂に入った。もう生徒はまばらで、残っているものは少ない。
「カムイ、昨日はご苦労だったの」
「っ!!…あ、ダンブルドア校長…すみません」
「良いんじゃよ。まったく、悪戯小僧達は日にちを選ばないからのう…」
「本当に…」
クスクス笑いながら、やって来たオレンジジュースのデキャンタを掴みグラスに注ぐ。ベーコンとトーストとサラダを取り続々と口に運ぶ。
「ちゃんと噛んでますか、カムイ?」
「マクゴナガル先生っ、ええ、噛んでます」
慌てて咀嚼の数を増やすと、マクゴナガルはため息をついた。
「まあ、良いです。…それはそうと、カムイ…その、今夜からお願いしますね」
リーマス・ルーピンの事だ。月に一週間、彼は叫びの屋敷に籠って人狼の自分をやり過ごす。
「承知致しました」
やり過ごすと言っても自分を傷つけて過ごすのだ。
人狼は夜の女帝に逆らうことはしない。だから、少しでも彼が自分を傷つけない様に見張る役をダンブルドアから頼まれていた。


「…リーマス…」
「起こしてごめんね、カムイ…おはよう…」
叫びの屋敷の一部屋はベッドルームになっている。ベッドで寝ているリーマスの足下にカムイはマットレスを敷いて寝ていた。上から覗き込んできた顔は、苦笑している様な心配しているような顔だ。
「いや、大丈夫だよ…」
カムイは勢いをつけて体を起こした。
「お腹は?」
「すいたかな」
照れくさそうに言うリーマス。その頭をカムイはわしゃわしゃと撫でてから、ごそごそと麻のバッグを漁り、彼の前にサンドイッチを差し出した。
「紅茶はここに置くよ」
サイドテーブルにポットを置く。
「それと、お前さんの好きな甘いマフィンな。チョコとラズベリーで良かったかな?」
「わあああ!!ありがとう…」
満面の笑みだ。子供らしくて可愛い。
流石に成長期なのであっという間に平らげていく。
「…ねえ、カムイ。狼の時の僕って、どうしてる?」
「あー…そうだなあ。大人しいぞ」
リーマスには狼の時のはっきりとした記憶が何もない。ここに来てから、傷が減っているのだ。時々、カムイが来る前に変わってしまうと傷つけてしまうらしいが、皮膚をえぐるような傷はついていない。
「大体、私の膝に頭をのせてゴロゴロ言ってるよ」
記憶がないのは惜しいなあと思うリーマス。
「『月は同胞、太陽は我が友、汝は我がしもべなり。その心手放しても、我が前に跪き、深く頭を垂れるが良い』…こう言うと、すりよってくるんだ。可愛いぞ」
「本当に?」
「ああ!本当さ。証拠に、私は何も傷つけられていない」
両手を広げ、なあ?と見せると、こっくりと頷いた。
リーマスは友人といる間も楽しかったが、カムイと過ごすこの時間も好きだった。ジェームズもシリウスも真夜中にカムイに世話になっていて、少し羨ましいと思っていたがこの屋敷で思いがけず彼女を独占出来てリーマスは嬉しかった。

昼間は昼間で授業に向かう生徒のおしりを叩いたり、迷った生徒を送らねばならない。
「リリー、セブルス」
本が廊下にバラバラと落ちている。あははっと笑い去るジェームスとシリウス。途方にくれる二人。まただ。
カムイは丁寧にそれらを拾うと、リリーに少し少なくなるように本を振り分けた。
「大丈夫かい?」
「ありがとうカムイさん」
「また沢山借りたじゃないか二人とも」
よく消灯ぎりぎりまで魔法書を読み漁っていたからよく覚えている。
「カムイ、あなたは管理人なんでしょう?だったら、あの馬鹿げた二人組をきちんと監視して」
ジェームスとシリウスの事だ。
いつものことだが悪戯を怒っているのはリリーを巻き込んだからだ。セブルスは一人なら耐える。
「セブルス!そんなこと言わないで」
「いや、その通りさ。レディーに怪我をさせてしまったようだからね」
本が落ちたときに紙で切ったのだろう。カムイはリリーの手をとると、白い布を当てて結んだ。
「セブルスのが上手いだろうけど、とりあえずね」
「本当にありがとう、カムイさん」
「授業に遅れないようにね二人とも」
ばいばいと手を振る。
「…あのくそガキ共」
毎晩毎晩。晩に限らず昼間もだ。慣れてきたかと思ったら。
「先が思いやられる」
カムイはこれからの六年を考えて溜め息をついた。


学年が上がれば悪戯は徐々に高度になっていく。優秀ないたずら小僧達だ。腕試しのつもりで何やら不穏な動きをし始めていた。
「なあ…面倒くさい」
石造りの壁に向かって溜め息をついた。すると、その壁がベロリと剥がれ中から三人の生徒が出てきた。
「また見つかった!!」
「頼むから大人しく寝てくれよ。毎晩毎晩飽きもせず」
頭を抱える。学年が変わってしばらくするとこうだ。
「じゃあ、見逃してくれよ」
「寝ろ!!」
ちぇっとシリウスとジェームスは口を尖らせ、リーマスはごめんよと苦笑した。
「今日は何しに部屋を抜け出してたんだ?」
「ちょっと探検」
「マクゴナガル先生との話を聞いていたんだろ?禁断の森に何があるか知ってて来たんだろ?」
無表情で詰め寄ればジェームスはううっと言葉をつまらせた。
「付いてくるか?リーマスは守ってやるがお前達二人は自力で生き残れよ」
「なんでリーマスだけ!」
「お前達が無理矢理連れてきたんだろうからな」
来いと合図すると三人は付いてきた。リーマスはカムイの横に来るとごめんねと小声でカムイに言った。
「腕試ししようと思ってさ!」
後ろからかかる勇ましい声がカムイの気力を削らせる。面倒だ。
「三年生になったからね。そろそろ良いだろうと思って」
「何が良いだろうだ。本当にふざけた餓鬼だなお前達二人は」
城を出て禁断の森にやって来た。いつも思うが不気味な森だ。生徒は入ってはいけないが、この子達は良く城を抜け出して行っているようだ。
ハグリットは奥まで知り尽くしている。というか、奥で誰も来ないのを良いことに趣味に走っている。
「何が出ても知らないぞ」
本当に、カムイも何がどれだけいるかなんて把握していない。ケンタウルスには頭が上がらないし、どちらかと言えば彼らに頭を下げる身分だ。
カムイは地面に片膝をつくと短剣を四本十字に刺した。
「何してるの?」
「ちょっと、黙ってろ」
腰の袋から朱色の墨壷を取り出し、四本の短剣を通るように円を描いた。
『東方の学士、西方の掟、南方の詩人、北方の楽園、四つの天が交わる下、大罪の罪人が焼け焦げた棺を担ぐ』
鈍く光る。
カムイはそこに手を突っ込んだ。
『黒棺』
巨大な棺が現れた。
「なにこれ」
「ってか、カムイお前なにやったの」
「…捕まえなきゃいけないものがいるんだ。そいつを探しに入る。杖は持ってるか?」
詳しく説明はしたくない。カムイはシリウスのそれを無視した。
「ああ!それなら皆持ってるぜ」
「よし。手分けをしたいのは山々だが、何かあっても困るから、私から離れるなよ」
「」
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