その他夢

□むそー遠呂智
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あの旅程の中で何があったのかは分からないが、夏侯惇と神威はよく夜に酒を共にしていた。この間の賊討伐も共に出て大きな成果を上げて戻ってきたと言う。
「猿よ、未だに解せぬのか?」
「のっ、信長様…。げ、解せぬ訳ではございませんが、なんっちゅーかその…」
信長の居城へ呼ばれた秀吉は主君の前でほとほと困り顔だ。怪しいとしか言い様の無い人間を信長が引き寄せ、魏国大将軍の夏侯惇が彼女を気に入っている。傭兵稼業と言うのは聞いていたが、オロチの傘下に与していた神威だ。よもや秀吉がその存在に一番近いと思っていたオロチにいたとは、益々埋伏の毒かと疑いたくもなる。
「ふっ。案ずるな猿よ。…神威が不穏な動きをすれば、この信長が斬る……であろう?」
「はっ。余計なことを、申し訳ありません」
「…それまで、良く使え。あれは役に立つ」
くつくつと笑う信長の目の奥はやはり、真意の見えない程に黒かった。


今日は領内の田の水路整備に夏侯惇と出ていた。
「っ、夏侯惇殿…凄い上手いですね」
良家の産まれ、曹操の右腕が慣れたように鍬を振るっていた。信じられない。汚れるのも嫌だと言う武将はたくさんいるのに彼は自ら率先して作業に入っていたのだ。
「そうか?…川や田畑の水路の整備なんかもやるからな」
「驚かれませんか?大将軍が…」
それに夏侯惇は苦笑した。
「まあな。初めはそうだが、兵士や農民達と働いていると馴染んでくる。最後には、誰も俺を将軍とは思わなくなるぞ」
それに神威はふふっと笑った。
「あなた様は良い上官なのですね」
ああ、可愛らしい。夏侯惇は神威のその笑みに見惚れていた。そしてすぐにハッとして咳払いをひとつする。
「…と、時にお前は何をしているのだ?」
夏侯惇は神威の腕の中の笹の籠を指差した。
「これは、苗ですよ。田に植える前にある程度育てておくのです。そうすると、収穫率があがります」
「そうですよ、夏侯将軍!去年神威殿に教わった方法で育てたら、畑の芋も野菜もそりゃあ豊作でして」
「ほう!…お前はそんなことまで知っているのか」
「いえ、私は口を出しただけです」
気恥ずかしそうに言うその姿も可愛らしい。だめだ、何を見ても可愛いとしか思えない。幸いなことに神威は畑小屋の裏の苗床に村人と行ってしまったから良かったが。
夏侯惇は鍬の柄に頭をのせてあーあとため息をついた。こんなことに一喜一憂するような餓鬼ではないのに。
その日は午後まで作業に追われ、出来上がった水路に水を引くのは明日になった。先ずはよく水路を乾かし強くしないといけない。明日の作業はすぐに終わるからと先に兵士達を城に帰し、監視のついでにと田畑の横の小屋に泊まることにした。
「ほ、本当に良いんですかい?」
村の長老や女達が夕食の握り飯やたくあんを持ってくると、二人はこちらの方が仕事が出来て有り難いと笑った。
「将軍様達がそう、おっしゃるなら」
「何かあったら直ぐにいってくださいましね!」
暗くなるからと部屋の蝋燭に火を灯して村人達は帰って行った。湯浴みは仕事の後に直ぐ入れてもらえて、後は夕食を食べて寝るだけだった。
「夏侯惇殿、握り飯はお口に合いますか?」
「ん?ああ、俺は好きだぞ」
これもと口にしたのはたくあんで。神威は物珍しいと目を丸くした。
「お前は、好き嫌いはないのか?」
「あー、無いですね。なんでも食べちゃいます」
「良いことだな。選り好みしないというのは、美徳だぞ」
「そんな、褒めていただく程の事では。食い意地が悪いとこちらでは言いますよ」
それに、夏侯惇は吹き出して笑った。
「食い意地か!…いや、そんなことは気にしなくて良い」
付いているぞと唇の端の米粒を取っ手やると、そのままパクリと口にした。
「慌てて食べなくても、誰もとらないぞ」
「す、すみません!」
顔を真っ赤にして伏いてしまう神威。その姿に目を細めた夏侯惇は、もしかしてこれは押したらいけるのではないかと思った。ぐいっと距離を縮め、彼女の真正面に座してみると、神威は驚き目を丸くして夏侯惇を見つめている。
「…変なことを聞いても良いか?」
「な、何でしょうか…」
夏侯惇は神威の頬を撫でるとそれにびくりと身体を震わせた。が、拒まないのか。これは。
神威は瞬きをした。夏侯惇が自分の頬を撫でている。その目付きはとても優しくて、ずっと潜めていようと思った想いを吐露してしまいそうだった。
「お前、好いたものはいるのか?」
「へ?…あの…っ」
目の前にと言っても良いのだろうか。
ん?と問いながら耳を撫で短い髪を指に絡めて笑っている。きっと気がついているのだ夏侯惇は。意地悪な人だと神威は少しだけムッとした。
「か、夏侯惇様はいらっしゃるのですか?」
「ああ。…目の前でむくれている」
「むくれてなど!」
夏侯惇はくつくつ笑ってすまんと謝った。
「お前はどうだ?」
「め、目の前の意地悪な人が…不覚にも素敵だなとは思いますが…」
「不覚だと?」
「夏侯惇殿は…たまに意地悪です」
「…お前はからかいたくなるな」
目を細め夏侯惇は神威の頬を包み、驚く唇にちゅっと軽く口付けた。
「俺が、嫌いか?」
「…好きです…」
最初に見たときからずっとだ。
神威は降参だとぽすっと彼の肩に頭を預けた。
「私、でかいですけど良いのですか?」
「関係ないな」
「綺麗じゃないですが」
「そんなことはない」
「良い香りしませんよ」
「俺の香をかしてやろうか?」
夏侯惇からはとても穏やかな香りがしていて、それがとても好きだった。
「大酒飲みだし」
「知っている。…ところで、まだ、出てくるのか?」
呆れて神威の肩を掴むと夏侯惇はその顔を覗きこんだ。
「もう、良いだろう?」
コクコクと頷くと、神威はほうっと息をついた。
「…いつも、俺の話をしてばかりだ。今日はお前の話を聞きたい」
「私の…ですか」
「言いたくないことは言わなくて良い。…だが、好いた女の話を聞きたいのは男の性だ」
夕食の乗っていた盆を片付け、壁際に寄って二人で並んで座った。神威はローブを互いの足に掛けると、竹筒に入った酒を二人で飲んだ。
「どこからが良いですか?」
夏侯惇は神威の手を握った。
「初めからだ。お前の生まれから」
神威は柔く微笑んで、少しずつ話し出した。やがて話が途切れる頃に、夏侯惇は神威の名を呼びその口を吸った。神威の嬌声が思わず溢れると、夏侯惇はその場に神威を押し倒し羞恥に紅く色づいた身体を解いていったのだった。


田に水が引かれると神威達は村を引き上げた。道中も話し、夏侯惇は少し心の隙間が埋まった心地がしていた。曹操の情報は未だに来ない。左近には頼んでいたが彼には中々厳しいですよと苦笑された。それでも頼むと強く念は押したが。従兄弟の夏侯淵は別で動いているとの情報は入っていた。一刻も早く合流したいが、無闇に動くよりもここで待っていた方がよさそうだ。
信長は夏侯惇の申し出を面白そうに聞き、古き器に固執するのもうぬらしい。その時が来たならば好きにしろと言っていた。食えない男だ。
城に戻ると秀吉が向こう側からやって来た。神威を認めると苦々しげな顔をするものだから、夏侯惇は驚いた。気の良い猿だと思っていたからだ。
神威は廊下の端に寄り、秀吉に向かい頭を下げている。そして、彼は彼女の前でピタリと足を止めた。
「よう、神威。お前、まーた来たんか」
「これは、これは秀吉様。お変わりございませんか?」
下げていた頭をあげ笑みを浮かべる。
「ふんっ。信長様を丸め込めても、わしゃお前を信用してはいないからな」
「おい!秀吉、お前何を…」
秀吉はすっと夏侯惇を見上げる。
「夏侯惇殿、あなたもこの女に騙されないと良いですな」
「はははっ、私はそんな事はいたしませんよ。…それより、秀吉様。毎夜の宴も宜しいですが、そろそろ軍を立て直しまともな調練をしなければ戦で役に立ちませんよ?」
秀吉は居城で武将を招きあれからも宴を毎夜開いていると言っていた。
「なんじゃ、お前…誰に口をきいていると思っとるんか!」
「秀吉様!!」
その時、光秀がさっとやって来て神威と秀吉の間に割って入った。
「…光秀…お前左近と結託して信長様に神威を推挙したようじゃな」
「結託とは人聞きが悪いですね。神威の才を買ったまでです」
「ふんっ。人のそれを越えた女に、才もくそもあるものか。お前も気ぃつけよ。こいつは、オロチからの埋伏の毒やもしれんからなぁ」
「なっ!」
不機嫌そのもので、秀吉は背を向けると廊下を歩いていった。
「…おい。秀吉は何だってあんな」
光秀はそれにため息をついた。
「神威が、人の傷を治したり、千の敵を一人で倒してみせたり…聞き覚えの無い言葉を話すからと」
それに苦笑する神威。
「私は、三国の人間でも戦国の人間でもありませんから。そうすると、オロチの仲間と思われても致し方ありません」
「いいえ!…あなたの功績を見れば、あのような態度、幾ら秀吉様であっても許されるべきものでは無いのです…。おねね様も呆れておられます」
「俺がなるべく側にいる。だから、安心しろ光秀」
夏侯惇は神威の肩に手を置いて頷いた。それに、光秀はありがとうございますと頭を下げた。
「何か不自由があればいつでも言ってください神威」
ではと光秀は居城に戻るために城を出ていった。夏侯惇は信長に報告に上がるために神威とはそこで別れた。居室の襖を開け、ふうっと畳に身体を投げ出した。しばらくゴロゴロしていると関平がやって来た。
「神威、ああ!休んでいたのか」
「いや、大丈夫だよ。どうした?」
起き上がって胡座をかくと、関平は神威に書簡を差し出した。
「昨日左近から神威に届いたんだ」
「ああ、左近から」
神威は早速書簡を開いた。
書いてあるのは最近の孫呉の動き、それから反乱軍がまた新しく立ったとの話も。それから、孫市の行方はまだ分からないとのことだった。
「…なんだって?」
「うん…。賊がまた増えているみたいだし、反乱軍は新しいものが出来ている。それから、孫呉は未だにオロチの属国だそうだ」
やれやれと書簡を閉じる。
「孫市の情報はないのか?」
「無いってさ。折角、良い得物が手に入ったのに」
「そうか。…神威は暫くここにいるのだろう?」
「へ?あ、うん。そうだね」
良かったと関平は胸を撫で下ろした。
「ところで、関平の想い人の星彩は見つからないのかい?」
「…そうだな。星彩は見つかっていないんだ」
黄忠も賊討伐の時には情報をと募っているのだが中々見つからないようだ。
「大丈夫、きっと無事だ。強いのだろう?星彩は」
「ああ!趙雲殿の弟子だからな」
神威は関平の頭を撫でた。
「あ、拙者これから光秀殿の所に行くのだった。神威、また」
「ありがとう関平」
書簡を持ち上げると彼は笑って部屋を出ていった。
神威は徐に書簡を裏返し、文机の筆で水をとるとべたりと書簡に塗った。それを蝋燭の火で炙ると文字が浮かび上がってきた。
『城下西門 夜半過ぎ』
神威は来てるならそう言えば良いと呆れた。わざわざ細工をするなんてご苦労なことだ。


夜半過ぎ、神威は城下の西門脇に来ていた。夜闇からふらりと出てきたのは左近だった。門番の見張りの目の効かない所に追いやられると、左近はしいっと唇に指をたてた。
「…左近っ…」
「神威、書簡読んでくれたんですね」
あははと笑う左近は神威の腰に腕を回して背中に顔を埋めている。
「っ…止めろ。ここでは、嫌だ」
「酷いじゃないですか。あんた、俺とするの好きだろう?」
背骨に沿って掌を下に動かすと、神威はぴくりと身体を震わせた。
「今は駄目なんだっ…」
「今は…ってことは、好い人でも出来たんですかい?」
それに神威は動きを止めた。ああ、そう言うことか。左近は、へえーっ珍しいと彼女の背中を見つめた。
城壁を背にさせ、左近は神威を押さえた。月明かりの下の顔はほんのり赤くなっている。左近はその顎を掴み、神威の唇に舌を這わせる。ひくりと動き、きつく閉じられた神威の目を見て苦笑した。そんなにあからさまにされると傷付くんですけど。左近は神威の名を呼んだ。
「大丈夫、俺とあんたは仕事仲間。でしょう?これもただの取り引きってだけですよ」
左近は神威の下履きを下げ落とし、徐に秘部に指を差し入れて笑った。
「ははっ、嫌がるわりには濡れてますね。相変わらずだな、あんた」
左足を抜き出すと、ぐいと持ち上げ開かせる。夜風がそこを撫で恥毛が揺れる。神威は観念したのか、左近の首に腕を回した。
「な、中には出さないで…」
「分かってますよ」
男根で十分に入り口を焦らされ、ぬちゅぬちゅと音をさせ始めると、左近は慣れたように腰を突き上げていった。神威は感度が良いらしく、商売女よりも凄いのだ。無理矢理だろうとしとどに溢れ抜けてしまうのだから笑ってしまう。嬌声を漏らさせないように神威の頭を片手で抱え込むと、自分は神威の名前を絡まる舌の合間に何度も優しく呼んだのだった。
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