乱世[短編]
□好きの意
5ページ/8ページ
「長曽我部元親っ」
我は奴の城に着くと、ただ必死に駆け寄った。
「元就…?どうしたんだ、一体…」
「どうしたもこうしたもない。貴様が来なくなって数日間、我は何かに取り憑かれたかのように不安でたまらないのだ」
「え…?」
「貴様がいつものように来ないから……胸が押し潰される」
声が震える。
目元が熱い。
「元就、お前……」
知らず知らずに抱きついていた。
けれど、この手を離せば、またこいつは我の前に姿を現さない気がする。
それは嫌なのだ…。
「元就…」
「っ…」
何をびくついているのだ。
ただ、名前を呼ばれただけではないか…。
「元就、こっちを向け」
「断る…」
弱々しい声…。
我はこんな人間ではなかったはずだ…。
「なぁ、向いてくれ」
「断るっ!」
「どうして…?」
奴の顔を見る勇気がない。
我は今、情けない顔をしているだろう。
それに……。
「我は貴様を罵倒した…。あわせる顔がない…」
「じゃあ、何で此処に来た?」
「それは…」
どうしてだ?
別に来なくても良かった。
だが、奴の居ない一時、奴の顔が常にちらついていた。
「ただ………」
「ただ?」
「会いたかったのだ…」