短編

□また、いつか
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―また、いつか―


息をのむ試合。
瞬きさえもったいない、そう思わす激しい展開。


そんな試合にも終わりはくる。


「ゲームアンドマッチ!ウォンバイ越前!」


会場からは驚きの声が響く。


―まさか、あの立海が?
―神の子 幸村精市
―相手は1年…


コートでは激戦を終えた2人が握手をし、言葉を交わしている。


ざわめきは止み、両校を称える声や拍手に変わる。
少し前の緊迫した雰囲気は影も感じられない暖かな海。


立海は掲げていた三連覇を成すことができなかった。
結果は準優勝。恥じることのない優秀な成績。
みんな精一杯努力した。
優勝まではあと1歩だったけど、ベストを尽くせたと言うことができる。
最高の試合だった。


ベンチへと精市が戻ってくる。
1歩1歩、ゆっくり、ゆっくりと。


私たちは無意識のうち、ゆっくり、ゆっくり、精市に近づいていった。


おつかれさま。
いい試合でした。


皆が口々に意を述べていく。


私も何か言わなきゃいけない。
でも、どんな言葉も出てこなかった。
精市に何を言えば、今のこの気持ちを伝えることができるのか分からなかった。


1人、距離をおいて精市が囲まれていくのを眺めた。


中心にいる精市は、今までの練習の時の厳しい顔と違い、穏やかでとても爽やかな笑顔を浮かべている。


「来年はよろしく。」


赤也に言うのを聞いて、私はその光景を目に焼き付けておきたくなった。
次に、このメンバーが揃うのは遠い先の未来かもしれないから…。
すこし、さびしいけど。


そんな時、精市がこっちを向いた。


1人輪の中に入っていなかった私。
かける言葉が見つからず、覚えた罪悪感。


目をふっと和らげて、優しく笑う彼を見れば、すぐに見つかった。


私が伝えたいのは、ただ「ありがとう」その一言。


立海をこれまでありがとう。
帰ってきてくれてありがとう。
ありがとう、ありがとう。


その言葉を繰り返し、止まらない涙をぬぐった。


ぬぐって、ぬぐって…
泣き止もうとすればするほど流れてくる涙。


いつの間にか、精市を囲んでいたはずのみんなが私の周りにいた。
いつもは厳しい弦一郎が頭を優しく撫でてくれたり、汗臭いかもしれん、と言いながらタオルを差し出してくれた仁王。


他にも私に温かい言葉をかけてくれる。
誰も欠けてはならない、8人揃って男子立海テニス部なのだ。そう実感した。


このメンバーがまた揃うのは遠い未来なんかじゃないのかもしれない。
案外早く揃う、そんな気がする。


END
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