短編

□バースデイブリーチ!
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「おばちゃんこんにちはー!」
「あらー×子ちゃん、こんにちは。精市なら部屋よ。」
「んー、ありがと!」

バタバタと足音がして階段を駆け上がってくるのは幼馴染の×子だ。
今も昔も変わらず元気なヤツ。

―バースデイブリーチ!―

ドアを勢いよく開けて中に入ると、精市は黙々と読書をしていた。たぶんアレだな。詩集!入院中にハマったとかなんかでそれ以来よく読んでるみたい。

「何しに来たの?」

話しかけては来るが一向に本から顔を上げようとしない。
いつから本の虫になったのやら。

「いや、ただ今日私の誕生日じゃん?でも、両親共仕事でいないのよねー。だから1人でケーキ食べんのもなんだから精市と食べようと思って。」
「ふーん。」

いやいや、ふーんって。もっと何か言うことあるんじゃないかな?
そんな事を思いながらも、とりあえずテーブルの上に家から持ってきたお皿を置き、ケーキをのせる。
そしてろうそくを1本自分の分に挿して火をつける。
一応許可を取ってから部屋の電気も消した。

「ハッピーバースデイトゥーユー、ハッピーバースデイトゥーユー、ハッピーバースデイディア×子。ハッピーバースデイトゥーユー!!」
「…。」

昼間だから光が射すとはいえ、薄暗い部屋の中で精市はまだ本を読んでいる。
なんともろうそくを吹き消せる空気じゃない。
溜息をつきながら頭をテーブルの上に乗っける。じーっと向かいに座る精市を見るが何の反応もない。

「…ねぇ。」
「ん、何?」
「今日ぐらいちゃんと祝ってくれたっていいんじゃない?」

そう言ったら何か反応を見せてくれるかもしれないと思った。
しかし、本からは顔をはなさずに言った。

「……そうだね。おめでとう、16歳だね。」
「…気持がこもってません。」
「いーじゃないか。もう16なんだし。」
「よくないよ!」
「そのうち誕生日がくるのがイヤになるよ。」
「私たち、まだそんな年じゃないと思うけど…。」

どう言い返しても淡々と返してくる。
絶対口から先に生まれたよ、精市は。
こうなれば意地でも納得させて祝ってほしいではないか。

「16歳の誕生日は泣いても笑っても人生に1度だけだし、16歳の誕生日に死ぬって言うじゃんっ!」
「×子は眠り姫とかじゃないから死なないよ。まったく、いつまでもお子様なんだから。」

はー、とため息をつかれるが、君はまだ15歳だろうと言いたくなる。

「…16歳になったら女の子は結婚できるんだよ。」
「ふふふ、そういうことは相手が出来てから言いなよ。」

これまた返されてしまい、もう言葉が何も出てこない。
少し膨れてテーブルに突っ伏してると、本をパタンと閉じる音が聞こえた。視線だけを精市に向ける。

「まあ、×子に貰い手が現われなかったら俺がもらってあげるよ。…18になったらね。」

そう言ってほほ笑む彼は、とても反則だった。


でもこういう誕生日も悪くない。
(…ローソク吹かなくていいの?)
(あっ!?)

END
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