Novel 1st

□強がり
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いつもみたいに歩く道。

人にまみれたスクランブルに、雑音激しい店の前。

目障りで、耳障りで。
なんとも受け入れがたい世界。

だけど隣の彼はそんな中で、いつでも笑っていた。

なんであんな風に笑えるのかわからなかったし、あんな風に笑ったりなんてできないと思ってた。


「ねえネク君」


後ろから呼ぶ声。

立ち止まり、振り返って彼を見る。


「なんだよ?」

「ちょっとお願いなんだけどさ」


やな予感。
こいつの「お願い」はろくな事がない。

そう考えなにがくるのか身構えていたら、ヨシュアはこちらに手を差し出した。


「手、繋いでくれない?」

「……は?」



突然のことに驚きを隠せなかった自分をヨシュアが見つめる。

にっこりと、楽しそうに笑う彼。

どうしてそんなに楽しそうに笑えるんだか、さっぱりわからない。


「ねえ、手。」

「どうしてだよ?」

「なんとなく。ネク君はなにかをするのにいちいち理由を必要とするの?」


言葉につまる。

そりゃ、お前はそれでいいかもしれないけど。

こちらからすれば。


「…恥ずかしいから嫌だ」

「どうせ周りからは見えないじゃない」

「死神、とかっ」

「たいした問題でもないでしょう」


嫌だからと言い張るものの、その全ては受け流されて。

ヨシュアの手は広げられたまま。

そこに俺の手が来るのを待ってる。

無理だ。
無理だよ。

繋いでほしい、だって?
手を?
俺に?

…そのささいな「お願い」をされる事が、嬉しくないわけがない。

こんなのキャラじゃないけど、どうあがいてもそればっかりは変わらない真実。

だけど。


「…駄目?」


ヨシュアの紫の瞳がこちらを見る。

――駄目?

彼の台詞が、ねだるような上目使いが、頭の片隅を支配する。

このまま、素直に手を繋げたら、抱きしめてしまえたら。

脳内が訴える欲求は理性が押さえ込む。


こちらのそんな葛藤を知ってか知らずか、ヨシュアはふいに目を伏せた。

「そう」

彼は呟くようにぽつりと言って、求めていた、広げていた手をゆっくりとおろして。


唐突に、罪悪感が襲ってきた。


あいつが突然おかしな事を言って、俺の困った顔を見てからかうだなんて。

いつものこと、だったはずなのに。

罪悪感なんて感じるはずない。


なのに。


おろされた手が。
その伏せた瞳が。

とんでもなく哀しそうだったから。


キャラじゃない。


そんな泣きそうな顔、
お前のキャラじゃない。



「ネク、君?」


ヨシュアが小さく声をあげた。

珍しく、驚いたような響きだった。


「……、これでいいんだろ」


ひったくるように奪った手の平。

思ったよりも小さかったその手は、体温が低いのか冷たくて、苦を知らないのか傷もタコも存在しなくて。

繊細で、か弱くて。

精一杯強がっていた。


「…ネク君、ツンデレ?」

「なんだよ…、それ」


自惚れかもしれないけど。


いつものように。
皮肉るように。

くすくすと笑う彼の顔は。


なんだかいつもより、
嬉しそうに見えたような気がした。



【強がり】
―…なりたい、なれない、素直な自分。



→おまけ+後書き
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