Novel 1st

□僕は
1ページ/2ページ



僕はゲームに勝った、はず。


あの最後の最後。
ネク君は結局、引き金を引けなかった。

それで僕は勝ったはず。

なのに、
なんでかな。

負けたような気分になる。



目下で笑いあう彼等。

楽しそうに。
楽しそうに。

こちらには気付かない。

当たり前だ、
次元が違うんだから。

僕は彼等を見られるけれど
彼等は僕を見られない。

当たり前のこと。


そう、
ここにこうして「壁」があるかぎり、君は僕に気付かない。


楽しそうに笑う彼。


僕といたときには見せなかった表情。

楽しそうに、
笑って。
笑って。


ねえ、知ってる?
この世界を、

渋谷を救ったのは君なんだ。


君は僕の目の前で変わっていった。

他人を遮断していた君は、
僕に撃たれて。

交差点で目覚めた君は、
僕のゲームに参加した。

その中で、
少しづつ、少しづつ。

君は世界を広げていった。

僕と同じ考え方をしていた君は、
いつのまにか僕と違う事を考えてた。


世界は僕一人でいい

自分自身がその全て

他人の価値観に意味はない

誰かとわかり合うことなんて
一生、できない。


そう考えてた君。
そう考えてた僕。


だけど、
誰かと関わりあうことで
誰かを理解することで
他人の価値観を知ることで

世界は広がってくんだ。

そう、教えてくれたのは君だったね。



「―なんだか、寂しそうじゃないですか?」



横に座る人物が言葉を発した。

寂しい?

…僕が?


そんなはずないじゃないか。


「そりゃそうでしょうねえ、なにしろこの先、彼等は自分で自分の進む道を決めていくんだ…」


勝手な解釈はしないでいい。

その言葉は最後まで聞かずに、この場所を飛び去る。



ヘッドフォンを外した彼。

最後にこちらを見たような、気がして。

その瞳が、なぜか僕を探しているような気がして。


そんな訳無いのにね。


だって僕は君を裏切って、
僕は君を二度も撃ったんだ。

許される訳がない。




なのに、
なんでかな。

最後のゲームのエントリー料。
彼にとって大切なもの。





だったよね。



「やれやれ…素直じゃないお方だ」



零れた涙の意味が、僕にはわからない。




【僕は】
―…君に、会いたい。




→おまけ+後書き
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ