Novel 1st

□グッナイガール
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やっと落ち着いた。ような気がする。
熱はどのくらいだろう。枕元にある体温計に手を伸ばすのも時計に目をやるのもつらい。

ああ、しんどい。


「ただいま大丈夫ーっ!?」


ドタバタと騒がしくタローが私の部屋に突っ込んできた。そんな、大袈裟すぎやしないか。
あとからリュータとハヤトが続けざまに入ってくる。
もうそんな時間か、なんてぼんやりと思った。


「倒れたってタローから聞いてびっくりしたぜ?」
「全く、心配したんですよ。」


そう言いながらハヤトは私の好きなのど飴を渡してくれた。さすがハヤト。よくわかってる。
リュータが体温計を手に取って私に渡す。





何だってこうなったか。
考えてみれば5、6時間前のこと。
今朝からなんとなく頭が重いとかだるいとかなんてことは思っていた。
でも毎朝そんな感じだしあまり気に留めてはいなかった。
のが間違いだった。

体育の途中、急に頭が酷く痛みだした。体中が熱くて堪らなかった。

それから意識が朦朧として、倒れた。

保健室に担ぎ込まれ、熱を計るとまさかの38.6℃という数字が叩き出された。
運んでくれたハジメちゃんや帰宅手配をしてくれたDTOには迷惑をかけた。




ピピピ、と電子音がしてリュータが体温計を取り上げる。


「37.9℃。まだ高いかな。」


ああそれでも落ち着いた方だ。さっきから上がったり下がったりだから。


「お前達何してるんだ。」
「病人の周りで騒いじゃダメさー。」


六さんとユンタさんの入室。言われて3人は立ち上がる。去り際にタローが早く良くなってねー!と可愛い言葉を残して。
全くアイツ等は、と六さんが溜め息をついた。


「はい、ゼリー作ったさ。」


食べさせてくれるというので有り難く頂くことにする。
六さんが水枕を変えるために再び下に降りていった。
それと入れ違いにカジカが具合どう?と部屋に入ってきた。


「どうしたさカジカ?」
「これDから。」


差し出されたのは風邪薬。
自分で渡せばいいのにね、とカジカは苦笑する。
驚いた、Dが風邪薬くれるなんて。日頃の怠惰のせいだ、とか言って冷やかしに来るかと思い込んでたんだけど。

ゆっくりとしたペースでゼリーを食べ終え、それを見計らって二人が出ていく。
ちなみに今日の私の夕食は卵粥だそうで。


本当に早く治さないと、な。


そう言えば枕はどうなっているんだろう。寝るに寝れない。


「六さん遅い………。」
「俺がどうかしたか?」


声の方を振り返ると水枕を担いだ六さんがいた。やり方がわからず作るのに手間取ったらしい。
ジャックは物知りになったな、という言葉が非常に気になったが敢えて触れないことにした。

水枕に頭を沈める。
耳元で氷がぶつかり合う音がした。
無造作に目にかかった前髪を六さんがそっと避けてくれた。
ずっと水や氷に触れていたからだろう、六さんの手は冷たくて火照った体に心地よかった。


「まだ熱は高いんだな。」
「さっきよりは楽になったよ。」


このままだと明日には治るよ、と言うと油断はするな、と返された。
そんな、六さんも大袈裟だ。ただの風邪だっていうのに。


「………早く元気になれよ。」


冷たくて大きな手は私の頭をそっと撫で続ける。
眠くなる。あからさまに目蓋が重い。
六さんが微笑んだ。


「一眠りするか?」


答えようにも頭が働かず、ただ頷く。



グッナイガール
(手放される意識の中で、おやすみ、を聞いた。)
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