Novel 1st

□ナミダ
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帰宅した俺の姿を見て、MZDが目を見開いた。
ぱくぱくとなにか言おうと口を動かすものの、言葉が出ないらしい。

なににそんなに驚いているのか、と彼の目線の降り注ぐ自らの頭部に手をあててみると、生温い液体が纏わり付いた。

「…あー…」
「け、けぇけっ…、それ、っ、…!!」

真っ赤に染まった手の平を見つめて、
参ったな、と
どこか人事のように呟いた。





「…銃弾が掠めたっぽいな」


鏡で確認。
そこまで痛いわけでもないけれど、場所が場所だから出血があった。
それを拭き取りながら傷口を確認すると皮膚が破れているのが見える。
どうやらそんなに深くは無いようだ。

後頭部とかじゃなくて本当によかった、と思う。
それだったら自分で見ることが困難だったから。

で、その場合頼りにせざるを得ないのが、

「だ、大丈夫なのか!?血っ!血がっ!止めなきゃ、ぅえあ!!」

救急箱を抱えて右往左往している目の前の少年になる、なんて事態は、
できればご遠慮願いたい。

神も仏も無いという表現は実に的を射ている。
そうしみじみと考えた。

「MZD…」
「なっ何!?なんかできることある!!?」

光速で振り返るMZD。
今の絶対ハイスピード×6。

「…ガーゼと包帯取って。包装開けてくれると助かる」
「ん、わかった!!」

いいながらがさがさと箱を開き、目当ての物の包装を解いてこちらに渡してくる。

ガーゼをあてて強めに包帯を巻く。
出血もおさまってきているし、これで一先ずは大丈夫だろう。

が、

「大丈夫?大丈夫!?まだなんかする事っ!?」
「…大丈夫だよ、あとはとりあえず安静にしてれば…」
「安静?寝とく!?」
「いや、そこまで」
「じゃあ何か他にっ!?」

自分の怪我より、こちらを落ち着けることのほうが大変らしい。

「大丈夫だって」
「で、もっ!」

小さな神様は潤んだ瞳でこちらを見つめる。
真剣な表情で、今にも泣きそうに眉をしかめて、
そこで。

あれ

この状態、前にもあったような。
なんてデジャヴを感じる。


こうやってMZDが泣きそうな顔でこっちを見つめてて、なにもできなくてごめんな、って何度も繰り返して。

あれはなんの時だっけ、と思い返して、ああ、と一人で合点する。


そういえば肩と腹を撃たれて、ほんとに死にかけたことがあった。
あの時は仲間が掃除屋本舗まで運んでくれたんだっけか。

「俺、だって、KKがいなくなるの嫌だよ、
俺にはお前を星にすることなんて出来ねえよ!」

ず、と鼻をすする音。
ああこいつは相も変わらず、泣き虫で弱虫で。


「大丈夫だよ」


小さく笑いながら、彼の頭をがしがしと撫でる。
びっくりした顔の彼がぱちぱちと目をしばたたかせてこちらを見つめた。

「だいじょーぶ。お前を悲しませたりはしないから。」
「………。」
「大丈夫だよ、ずっと傍にいてやる。」
「…だけど、」


人はいつかは死んで、
神の手で星になって、
また輪廻の時を待つ。

それは変えられない、
運命という名の定め。

だけど


「例え俺が星になっても、さ。
ずーっとお前の傍にいてやるよ。
な?それでいいだろ?」


KKはそう言って
小さな神様の肩を抱きしめた。


「…ほんと?」
「ほんと」
「一人にしない?」
「絶対」
「ずっと淋しい思いしなくていいの?」
「俺で足りるならな」
「ずっと、ずっと、ずうっと、ずーっと、傍に、いてくれ、る?」
「神サマが望むなら、いくらでも」
「、っう、」

KKがおどけて発したその言葉を踏ん切りに、MZDが大きな声をあげて泣き出した。

「ぅ、あっ、ひっ…、く、あ、ぁああああ…!!」

見かけ通りの子供さながら、後から後からぽろぽろぽろぽろ涙を零す。
熱を帯びて真っ赤に染まった頬の上を、生暖かい雫が流れていく。

彼の言う「一人」で「淋しい思い」をしていた時間がどれほどまでに長く、どれほどまでに苦しかったか俺にはわからない。
それこそ人知を超えてしまっている。

だけど傍にいる、と、ただそれだけで、
こんなにも涙を流すほど。
気の遠くなるような孤独を彼は知っていて、
そして遠い未来のいつかにそれがまた再び訪れるであろうことも知っているのだろう。

それはこんな小さな存在一つにどうにかできることでは無いけれど、

小さな神様を
抱きすくめることなら
できた。


「KKぇ、けーけぇえー…」
「んー?」
「俺お前が嫌いだー…!」
「どーして」
「だって、何千億年の中でっ、こんなに気持ちになったの、初めて、だ!」
「…そっか」


そうして泣き続ける神様に両手を広げてみせる、と。
大人しくぽすり、と腕の中に飛び込んでくる。

ぎゅー、としがみついてくるMZDが妙にあったかくて、そしてそれは向こうも感じたらしく。

「KK」
「ん?」
「大好き」
「知ってる」
「KKは?」


「大好き。」


にこり笑って言ってやると、MZDも赤い顔で返答した。


「…知ってる!」



【なみだ】
―…こんな嬉しかったの、初めて、だ。



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