Novel 1st

□ばらばらみらくる
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Tシャツにジーパンといったラフな格好の彼は、人のベットの上に図々しくも横になって、
そしていささか退屈そうに携帯ゲーム機をいじっていた。

「ウーノは?」
「打ち合わせ」
「若はー?」
「ソロ活動」

フォースの手元から軽快な音楽が部屋に流れる。

ヒゲの配管工が跳ねたり大きくなったりする音を聞きながら、ツーストは手元の文庫本のページをめくった。

「で、ツーストは?」
「夕方から、撮影」

事実を告げるとフォースは不服そうに足をばたつかせた。

ぱふんと、毛布に跳ね返るたびに埃が部屋に舞う。

「俺一人じゃんよー…」

ぱふんぱふん。
もやもやした気持ちを象徴するように埃は舞っていく。

やめろ、と声をかけると彼はやっぱり不服そうに声をもらしながら、しぶしぶ足の動きを止めた。


「…お前は明日ウーノと仕事があるだろ」
「そりゃそうだけど、さ」

埃の中でフォースが寝返りをうつ。

「ツーストいねぇじゃん」


ヒゲの配管工が、落ちた音がした。


「今日はたまたま一緒だけどさ。だけどそんなに長くいられねえじゃん。
明日もそれぞれ別のとこに仕事で、その次も、その次も一緒にいらんねえじゃん。」

気がついたら文庫本なんて見てなかった。
こちらに背をむけてベットに寝転ぶフォースの後ろ姿が視界にはあって、
ページをめくることなんてとうに忘れてしまっていた。

「普通に仕事すんのも楽しいけどさ。
やっぱつまんねえよ」

ゲームオーバーの音が響く。

ゲーム機はフォースの手を離れて枕の横に転がっていた。

「ね、俺、ツーストと一緒にいたい」

なんだか淋しげな背中がころりと転がって、起き上がった彼の目と目があった。

金髪の猫っ毛が布団に押し潰されて多少歪んでいた。

「…フォース」
「次、みんなと、ツーストと一緒にいられるのって、いつ?」

いつも強気な瞳がわずかに揺れる。

ああこいつもこんな顔するんだ、と、頭の片隅が冷静に呟いた。

「…次のパーティがある来月、かな」

そう告げてやるとフォースはいっそう不機嫌そうに眉をしかめる。

「…遠い」
「仕方ないだろ、そういう仕事だ」

その言葉にかちんときたのかフォースが一層眉をしかめる。

あ、まずかったかな、と思うが早いか、

飛び降りるようにベットを降りて、一直線にこちらへ歩み寄る彼へ、
とっさに反応が出来なかった。


「ツーストは別にいいんだ?会えなくっても大丈夫なんだ!?」

目の前で子供が駄々をこねるように叫ぶフォースに両肩をつかまれて揺さぶられる。

止めさせようと手を伸ばした拍子にぱっと手を離されて、バランスを崩した。

「ツーストは、やっぱり俺なんていなくても平気なんだ!!」

背中に衝撃を感じて痛みに顔をゆがめる。
そのせいでなんだか目がさめたような、そんな気がした。

フォースの泣きそうな顔とか、つかみ掛かられたままの震える手とか、そういう現実が頭のなかにすっと入り込む。

「嫌だよ」
「っ…!」
「俺だって嫌だよ、皆と会えないのも、フォースと会えないのも嫌だ」
「嘘だ!」
「嘘じゃない!俺だってつまんねえよ、お前と一緒にいたいよ!!」

次のパーティーまで、四人が揃う日が数える程しかない。
その日も打ち合わせになっているから、またみんなでのんびり過ごす暇がどうしてもできない。

ウーノも仕方ないと笑ってはいたけれど、彼を含め全員がそれでいいはずもなく。

だけどなにをどうすることもできなくて、ただただ自分をごまかした。

そんな器用なことがこいつにできる訳もなく。


「…ねえツースト」
「なんだよ」


ほんとに子供のような、くるりと丸い瞳が揺れる。

覆いかぶさるように抱きすくめられて少し重たかった、けど、
もはや跳ね退けるつもりもなかった。


「今日、仕事行くなよ。ここにいろよ」
「…それは無理」


フォースがなにか言おうとして開いた口を静かに閉じた。

わかりきった返事だったのだろう。
言いかけた反論を飲み込んで、


「じゃあもう少しだけこうしててもいい?」


襲わないから、と口添えして肩に顔を埋めるフォースがなんだか愛おしくて、

ああ、そういえばこいつはこんな奴だった、と、

忘れかけてた仲間の感覚を取り戻した。

撫でるように彼の背中を叩きながら、もう少ししたらまた皆で笑えるよな、と思いをはせる。

こうなったらとっとと後輩に引導を渡して、それでみんなとゆっくり昼寝でもしよう。

彼にそう告げると、小さくうん、と頷いた。


【ばらばらみらくる】
―…小さな子供の我慢のはじまり。


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