Novel 1st

□死神あそび03
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ふわりと甘い香りが漂うと、つい辺りを見渡してしまう。

程なくして見つかる彼の姿はいつでもこちらを向いている。


「や、元気してるかイ?」

「…見てのとおりだ」


スクランブル交差点のど真ん中。
高々と組まれたオブジェ。

まだ作りかけのそれの上で工具を握る姿を見て「元気がない」と思う者はまずいないだろうと思う。

ふ、と思いたって手に持ったドライバーをダーツのように握り直す。
彼に投げ付けると狩谷は片手でそれを受け止めた。

口笛を吹くように彼は息をついて、にやりと笑う。


「相変わらずだネ、猩。」

「はっ…おまえもな。」


実は結構本気で投げたというのに。

にこにこ笑って受け止められた、というのは軽くショックだった。

やっぱりこいつは下っ端の器じゃない。

改めてそう思った。


「…なんで幹部昇進断ったんだ」


一つ年上の彼。

本来なら隣にいたっておかしくないのに、彼がいるのは自分の下。


「言ったダロ?俺は現場が好きなノ。」

「………だから、」


いつまでも目線の下。
見上げられたまま。
目的が違うから。
目標が違うから。
いつまでも、
このまま。

隣に立ってはくれない。


「だからお前は、…いつまでも1ヨクトグラムなんだよ」


憎々しげに言い放つ。
口から出るのは蔑みの言葉だけ。

ほんとは、
傍にいてほしいだけなのに。


「…ねぇ猩、」

「………。」

「ゲームをしようカ」

「…は?」


驚いてそちらに顔をむける。

目に映るのはいつもと変わらないうすら笑い。


「死神あそびの03、鬼ごっこ。猩がこのドライバーを俺から取り返せたら勝ちネ?」

「なっ…」


それは困る。

本来なら放置してやるんだけど、いま手元にあるドライバーはあれだけだ。


「よーい、ドン!」


狩谷がこちらに背を向けて走り出す。

その手の中の灰色のドライバーもみるみる遠ざかっていった。


「…っ、あのヘクトパスカルがっ!」


慌ててオブジェから飛び降りる。

人込みの中へ着地すると、そのまま彼の逃げていったセンター街へ向かった。


近くて遠い、
オレンジの髪。

いつのまにか必死で追い掛けていた。


 
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