Novel 1st

□営業妨害
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暇だから、と彼がこの狭いアパートに押しかけるようになってもう数ヶ月になる。

ここにきたからといってなにか暇潰しがあるわけでもないだろうに、彼はなにかとこの部屋に訪れた。

久しぶりに休みを堪能したい時だろうと、こちらとしてはできれば見られたくない作業をしている場合であろうと、そんなのお構いなし。

我が物顔で居座る神様には苛立つどころか呆れてしまって、もはやため息しか出てこない。

言ってもきかない奴だとは、もう初めてパーティへの参加を決定された時からわかっていたので今更なにを言うわけでもない。

仕方ないかな、と自分が折れていた。


「けーけー、遊んで。」
「…お前はどこのガキだ。」

小学生以下の子供の発言をするりと受け流すと、子供にしては大きすぎる少年はぶうぶう文句を言った。

「まあ俺は見ため子供だけど。」
「…俺は中身の話したつもりなんだがな」

親指で反動をつけて、そのさらけ出された額に中指をぶつける。
ぱちん、といい音がして、少年は小さくうめき声をあげた。

「って…、」

眉にシワを寄せて不服そうにこちらを見上げる小さな神様が、やっぱり不服そうに声をあげる。

「…一応俺さ、あんたに敬われるべき存在だと思うんだけどっ?」

お決まりの台詞。
彼をからかうといつもこの台詞が飛んでくる。

「俺は宗教家じゃあないからな」

そして返すのもお決まりの台詞。
ああいつもの繰り返し。

「ふん、だ。KKのばァか。」
「…はいはい悪うございましたよ神様。」

ちらり、とこちらを見てふて腐れるようにそっぽを向くから、
手の中で整備していたライフルは一度おいておく事にする。

ああ人を殺す道具を前に、なんて平和なことか。

「KK、」
「…うん?」
「俺別に、暇つぶしにきてる訳じゃないから」

背を向けたまま小さな神様は話しはじめる。

「暇だから、来てるんじゃないから。俺、」

ちっさめな手がこちらのツナギのはしを掴む。
ぎゅう、とにぎりしめたまま神様は、

「俺、KKに会いに来てんだから。」

なんともはや、とんでもないことをおっしゃった。

唖然として彼を見る。

すると彼の耳は真っ赤に染まっていて。
思わず噴き出してしまう、と、少年はやはり真っ赤な顔でこちらを振り返った。

「な、んだよっ!俺真剣なんだからな!」
「悪かった、悪かったよ!」

こらえきれずに押し殺した笑い声がこぼれる。
小さな音だったけれども、それが神様に聞こえないわけがなくて。

いっそう不機嫌な顔をして、それから彼は何か思い付いたように
にやり、とあの憎たらしい笑いを浮かべた。

嫌な予感。

まあいつだって、そう思った時にはもう遅いのだけれど。

「KKー?」

のびてくる両腕。
触れられる肩。
支えるものも抵抗する暇もなく仰向けに押し倒されて、

目の前には不敵に笑う神様の顔。

「おい、MZD、」
「大好き」

笑ったまんまで、だけどいままで見て来た中で一番真剣な目で、そしてやっぱり頬を真っ赤に染めて。
唐突に、彼は告げた。

「俺ね、KKが、好き。」

ぽすん。
彼の体重が体にかかる。
首に手を回されて、すぐ横に彼の顔があった。

「KKは俺のこと、嫌い?」

ぎゅう、と。
彼に抱きしめられて。
こちらとしては身動きが全くとれなくていい気はしないのだけれども。

何故だか少しだけ心地よくて。

「…嫌いじゃない」

それならとっくに追い出してる。

「ほんと?」
「ほんと」

彼がそれはそれは嬉しそうな顔でこちらを見た。

「やた、KK大好き!」

再び彼は肩に顔を埋めてきて、くすぐったくて、だけどなんだかやさしい気持ちになった。

そういえば人の温もりってこんなのだった。

最期に感じたそれは、誰からのものか思い出せないほど遠い昔か、はたまた実は初めてなの、か。

頬をかすめるはねっ毛をぽんぽんと撫でてやると腕に込められる力が強くなった。

「へへ、KK大好き」
「何回目だよそれ」
「何回だって言ってやるよ、KK大好きKK大好きKK大好き!」

聞き飽きた、なんて皮肉を言えば、俺が言い足りないの!とか元気いっぱいに返事が返って来た。

さっきまでの不機嫌はどこへ消えたのやら。

いつまでも手は離してもらえなくて、かといって認めるのは少ししゃくだけれど、言うほど嫌だったわけでも無くて。

足元に転がった、分解されたままのライフルがもとの形を取り戻すには、たっぷり時間が必要だった。


【営業妨害】
―…今夜のお仕事は明日へ延期。


→おまけ+後書き
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