Novel 2st

□初めて殺したのは兄だった
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「Mr.KK」は兄の名前だった。

正確にはそれは仕事をする時に使っている名前で、彼はその名を先代から継承した。
清掃会社HELLCLEANにおいて闇の掃除屋Mr.KKは襲名制だったのだ。

「Mr.KK」は兄の名前だった。
歴代でも指折りの凄腕スナイパーは、裏の仕事と全く関係無いところで死んでいった。
兄は、増水した川に落ちて溺れた自分を助けようと飛び込んで、自分の代わりに流された。
死体は今もなお、見つかっていない。
まだ俺が幼い、十一の時だった。



雨が降っていた。
風が吹いていた。
直撃した台風は、町を騒がしく揺らして、揺らして。

早く帰ろうと近道に橋を渡って、その瞬間に波がきた。
そんな大きな波じゃなかったけれど、その水流は橋をわずかに乗り越えて、自分の足元を掠っていった。
それはあんまりにも突然で、気がついたときには水に呑まれていた。
川に落ちたのだと理解するのにそんなに時間はかからなかった。

そこまでは鮮明に、覚えていた。
その後からがなんだか曖昧なのだ。

パニックだったからだとか、意識が飛んだからだとか、推測する言葉は沢山聞いた。
だけど自分はどれも違うと考える。
何故だか自分のその憶測には妙な確信があって、それが事実だと頭の何処かが訴えていた。

認めろ、と。
お前は逃げたのだ。
お前は兄を殺したという事実から逃げ出したのだと、それを認めろと、頭の何処かが必死に訴えていた。


先代Mr.KKは、俺を助ける為に川へ飛び込んだ。
俺を助けて、流された。
俺が兄を殺したも同然だ。


頭の中で、
その声は今なおこだましている。


「初めて殺したのは兄だった」

紛れも無い、事実であった。



20090212

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